二十四話 ページ26
「‥‥俺との子か、」
冴から話を切り出した。
じわりと手に汗が滲む。耳がおかしくなったか冴の声が少しだけ震えているように感じた。
「‥‥うん、冴の子だよ」
沈黙のなかに感情を押し隠す。気取られないようしずかにそっと。そうすることには慣れていた。だってもう何年ものあいだ、この男の前で無自覚にそうすることを選んできた。
白い雪が、早く言ってしまえというようにAを急かした。
喉が乾く、今まで慣れてきたはずの沈黙のはずなのにAは途端にパニックになった。
「ごめん、勝手に出て行って。妊娠して、怖くて逃げちゃった。冴が忙しいのも、精神的に辛い時なのもわかってたのに逃げた」
「A、」
ちゃんと立て。
冴が目の前にいるんだろう。伝えるんだろう。泣くな、馬鹿。
手足に力を込めなければ、途端に震えが襲ってくる。Aは決して泣くものかと唇を力強く噛み締めた。
ふつふつとした感情は激情に変わった。どうしようもないほどの熱量だ。収まりがきかない。五年間煮詰め続けてきた感情はAが思っている以上には重かった。
珍しく感情をあらわにして、悲しそうなそれでいて怒っているような、愛情を向けた目でAはひたすら目の前の男を睨む。
「逃げても、逃げても、アンタに何回抱かれても、アンタが他の女の人とよろしくしてるのも、アンタに愛を囁かられなくても」
もう無理だ。
ああもう、またこうだ。
またこうやって、自分が嫌になる。
また戻ることが出来るのなら。
Aは自分を殺すことにした。
「すきだよ」
告げた言葉はそれだけ、それだけのはずなのに肩の重みが随分抜けたような気がした。
置かれた沈黙に戸惑いを見出す。見出すけれど、もう見て見ぬ振りなんてしてやれそうにない。
「どうしたってさ」
Aは一層美しく悲しそうに笑う。
「私にはわからないの、冴に酷いことされても、もちろん辛かったけど、」
「冴の子‥、翡翠を産んで、もうこの感情は収まったと思ったのに、そう思ったのに‥、もう段々、私、冴を見る度に辛かった」
「もうそんなの嫌だよ、冴」
Aには翡翠がいればいい、それでいい。それでいいと思っていたのに、少しずつ、強欲に、どちらも大事にしたいと思うようになってきた。
けれどもう、甘く、ゆるく、曖昧に。誤魔化し合いながら漂い続けるこの関係は終わりにしたかった。
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なぎねぎ - すごくおもしろかったです。女の子の性格がとても好きでした。 (1月12日 20時) (
レス) @page32 id: eca7262407 (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無％(プロフ) - 完結おめでとうございます！題名からビックリし惹かれまして読み進めていったらこんなにも面白い作品とは思いませんでした！！ビックリ展開多かったですけどとても面白かったです！お疲れ様でした (2023年4月1日 6時) (レス) @page32 id: 00e0ebd256 (このIDを非表示/違反報告)
Joke(プロフ) - 完結おめでとうごさいます！このお話が出てきたときからのファンで、友達にも紹介するほど好きだったので完結してとても嬉しかったです！改めて完結おめでとうごさいます！ (2023年3月28日 1時) (レス) id: 61b77d541b (このIDを非表示/違反報告)
虹(プロフ) - 完結おめでとうございます🎉ずっと陰ながら応援させていただいてました！！！この作品滅茶苦茶好きです！改めておめでとうございます！ (2023年3月18日 11時) (レス) @page32 id: 12afbbff79 (このIDを非表示/違反報告)
ちわこ(プロフ) - ひやああああ面白いっ！！更新楽しみにしてます！！！ (2023年3月13日 23時) (レス) @page29 id: 743e31f7de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：じゃじゃー麺 | 作成日時：2022年12月19日 16時
