○ ページ30
ヒロト君。
何度だって耳にした、聞き慣れたその名前。輝いていた彼の名前。
私が口にする日が、そうして彼が微笑み返してくれる日が来るなんて、想像してなかった。
想像、出来なかった。
「ご飯美味しかったね」
「うん。お風呂も入っちゃったし…どうしよっか」
呼び方を変えただけでも、お互いの名前を口にする度距離が近付いていくようで。
それでも、こんなに広い部屋に二人きり。ヒロト君が座るソファに自分も腰かけることを、妙に意識してしまう。
取るべき距離が分からなくて、ヒロト君の座っているものと共に、ローテーブルを囲うように置かれた一人掛けのソファ。それに取り敢えずそっと座った。
「Aはテレビとか見る？」
「あっ…うん…！ご飯を食べる時とか、一郎太のお母さんが付けるから…」
そう簡単に慣れるものじゃない。一郎太や守に呼ばれるのとは全然違う。分かっていても、その度に心臓が小さく跳ねる。
「何か見る？」
「ううん、今はいいかな。ヒロト君も勉強中だし」
「ふふ。俺のことは、気にしなくても良いよ」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だよ」
空いた方の手でリモコンを取るヒロト君に首を振ると、そっかと柔らかく微笑む。
「折角ヒロト君と居るのに…テレビ見るの、勿体無いかなって」
ヒロト君は忙しそうで、会うことは勿論、連絡も頻繁には出来ない。
緊張しない訳じゃないけど、こうして二人で過ごせる貴重な時間を貰えたから。少しも無駄にしたくない。
そんな気持ちの端くれを、ぽろりと口にした。ヒロト君の視線が手元の本から私に移るのを見て、途端に恥ずかしくなる。
「あ、ご、ごめん…」
「何で謝るの？嬉しいよ、すごく」
そうだな…。言いながら、彼は分厚い重圧感のある本を傍らに置き、口元に手を当てた。それからまた私の方を向き、優しい笑顔を浮かべた。
グラウンドの上の彼は絶対に見せないような、少し赤らんだ顔に浮かぶ照れ笑い。
「俺も、今日はAとの時間を優先したい」
ヒロト君はソファを小さく叩く。私が座るには、十分すぎるほど空いたスペース。
「…！」
「俺…全然恋愛とかには疎いけど、いざ自分がこの立場になったら分かる。…好きな人に、触れたいって思う気持ち」
「抱き締めても…良いかな？」
私も分かった。…それが、反則の笑顔だってこと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 44人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
輝(プロフ) - 布都御霊さん» コメントありがとうございます。最後まで完結できたのは皆様のお陰です！温かいお声、本当にありがとうございます(*^^*)キュンキュンできるようなお話を書けるようこれからも精進して参ります！ (2019年6月24日 20時) (
レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
布都御霊(プロフ) - 「君に、初めまして」完結おめでとうございます。何度も泣かせていただきました(泣)もう、この2人の初々しい見てるだけでキュンキュンするようなお話が見れなくなるのかと考えるとまた涙がぁ〜。(/_;) (2019年6月17日 3時) (レス) id: ac233dda56 (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 明日香さん» いつもコメントありがとうございます(^^)出来るだけ早く更新できるよう頑張ります…！ (2018年8月5日 7時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
明日香 - 久しぶりの更新ですね...！ずっと待ってました！！ありがとうございます^ ^今回も楽しく読ませていただきました。次回の更新も楽しみにしていますね！ (2018年7月31日 20時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 大丈夫ですよ^^更新されるまで、気長にずっと待ち続けます。応援してますね^^ (2018年6月18日 22時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：狩間篤花 | 作成日時：2018年3月26日 16時
