5人で生きてゆく…part65 (ページ13)

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［先輩side］

翔くんの手首をタオルで
押さえている雅紀くんを見て、なにがあったのか
だいたい分かった。

服が乱れて右手のリストバンドも見えていて…

『あぁ…自傷行為していたんだな』と。

パニクる翔くんを落ち着かせるのは簡単では
なさそうだけれど…

きちんと意思表示できているから、伝わるかも…と
思って、少し厳しく声を掛けてみた。

「どうする…？薬、使うか？」

翔「…」

何度目かの沈黙の後…

『もう起きなくして下さい…』

俯いたまま、苦しそうに絞り出された声。

そうきたか…と。

傍で様子を見守ってくれていた智くんが「しょう…」
って小さく呟いたのが聞こえた。

翔くんと同じように、苦しそうに絞り出された声…

雅紀くんと双子くん達がいなくてよかった。

智くんと翔くんのこんな姿、見せたくない。

2人だって見られたくないだろう。

翔「…んぱい、お願い、します…」

智「しょう…」

「ん、分かった。…辛かったね…気が付いて
やれなくて、ごめん…」

智「先生…」

「ん、大丈夫。少し休ませてあげよう？」

智「…はい」

翔くんを支えてもらっている間に、翔くんの部屋の
薬が入った棚から薬を取り出す。

整理整頓が苦手な翔くんだけど、この棚だけは
本当に綺麗に整理整頓されていて、何がどこに
あるのか一目で分かる。

もちろん、補充もしっかりされていて管理は完璧。

「翔くん…責任感、強すぎだよ…」

思わず口からポツリ…出てしまった言葉が虚しく
返ってきた。

翔くんは自分に厳しすぎる。

俺がこんなこと感じていたって何ひとつ変えることは
できないんだけどね…

智「鍵、すぐ分かりました？」

「ん、分かった。ありがとう…」

薬剤の棚の鍵、兄の3人しか保管場所を知らないと
聞いたことがあったから…

しっかりと元の場所に戻して、2人のところに戻ると
智くんはすっかりお兄ちゃんの顔になって、翔くんを
抱き締めていた。

「そのまま、お願いね…」

智「…はい」

「翔くん、休もうね。力抜いててな…」

智くんの腕の中で静かに涙を流していた翔くんが
小さく頷くのを確認してから肩を消毒する。

『ラクになれる…』って思いからなのかな…

体からスーッと力が抜けていく。

「もう終わったからね…」

翔「…」

智「先生…ありがとうございます…」

ほんの少量だったけど、翔くんはあっという間に
意識を手放した。

「ごめんね…無力で…申し訳ない…」

謝る俺に智くんは「よかったです…」って笑顔を
見せた。