無口少女と精神科医【米森サトル】

君の名前は ページ14

病室につくと、とりあえず彼女をベッドに寝かせる。
もちろん、部屋は一人部屋なので、僕と彼女以外誰もいない。

僕は彼女の目にかかった前髪を払いのける。
相変わらず彼女は目を閉じたままだ。



サ(次に起きた時も....あの暗い瞳のままなのか....。)


僕は少し悲しくなる。数日前、弟の件で病院に来ていた彼女を覚えていた看護師がいて、
その人は僕に彼女のことを話してくれた。
その人によると、彼女の瞳はまるで青天のように明るい瞳で、
その瞳と同じように明るい笑顔をする女の子だったらしい。
でも今の彼女の瞳は青くとも、深い深い闇の中にいるような青。
笑顔なんて、見られるような子には見えなかった。



サ(...そういえば....。)


僕はふと思う。彼女は自分の名前を聞いただけであのような状況になった。
なんでなのだろう....。彼女のあの時の反応は...。


サ「....アイダ....」



そういえば、と思って僕は診察室に戻って彼女に関する資料を取り出す。
そしてまたAちゃんのいる病室に戻った。
そして僕は資料に目を通す。


サ「相田A....。普段は感情が乏しく無口であるが、
弟に関する事柄を聞く途端に叫び出してしまう...。」


弟に関すること.....？


僕は自分の発言を振り返る。


サ「....まさか、自分の名字でさえ、弟のことに結び付けてしまうのか....？」



僕は彼女には名前しか聞いていない、
そして彼女は名字である相田という言葉に反応していたように思う。
ということは....



サ「彼女は自分の名前を思い出すたびに叫んでしまうことになるのでは....？」



これでは....治るどころか彼女の精神的負荷が大きくなってしまう。

サ(どうしたものか...。)



そう思っていると、僕の側でごそごそと動く音が聞こえた。
驚いて振り返ると、青と灰の瞳と目が合う。
綺麗な瞳で....また僕の目を奪っていくような....。


『........誰....？』



サ「...え？」

『ここ.....どこ......？』


彼女は辺りを見回している。


もしかして....さっき僕と話した事、覚えてないのかな...？


サ「えーっと、...僕は米森サトル、ここは病院で僕は君の先生だよ....？」


『....先生...？』


サ「...そう....先生。」


『......じゃあ、私は.....誰.....？』



サ「...っ。」


僕はすぐには答えられなかった。
彼女の本名を答えれば、先程の二の舞になるではないか。



サ「.....君は...









君は.....有馬....。...有馬Aだよ....。」

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