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07.逃避行 ページ8

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翌日の早朝、まだ家族が寝静まっている時間に二人で家を出た。


ナイフ、親の財布から抜いた金、お菓子、


思いつく物すべてを適当にリュックに詰め込み、お互いの存在を確かめるかのようにギュッと強く手を繋いで走り出した。


もう、こんな場所に帰って来ることはない。コイツ以外は、全部ここに置いていく。


俺等に家族なんて最初から居ないも同然。友達だっていない。捨てるものなんか今更もう無かった。



それから俺たちはいくつも電車を乗り継いで


遠く遠く、遥か遠くへ。



.




『お兄ちゃん、私たち何処に行くの?』

「…ガンダーラ。」


そんなもの信じてたわけじゃない。でもその時の二人なら何処にだって行ける気がした。

お互いの名前すら知らないのに、手を繋いでいるだけで心が通じ合ったようだった。


「…一旦、ここで降りるぞ。」

『…ん』


手は強く繋いだまま、電車を降りようとしたそのとき


後ろから肩に手を置かれた。




「…っ!?」


「明石春千夜くんだね。」




オトナだ。



やばい。





「走るぞッ!!」


俺が叫ぶと一斉に走り出した。


すると、周りに居たオトナ数名も一斉に俺達を追いかけてきた。



嫌だ

嫌だ



俺達は行くんだ。ガンダーラに。





「来るな!!!」



俺は咄嗟に、リュックからナイフを取り出して自分の首にあてがった。

追いかけて来ていたオトナ達は動揺して足を止める。




「やめなさい!ご両親が心配している!」


「アイツ等が心配なんかするわけねぇだろ!!いいから散れよお前等!!」


「私たちはその女の子を保護しに来たの!」


「保護!?笑わせんな!お前等オトナが放っておいたからこんなことになったんだろうが!」




手に力が入り、首から血が伝う感触がした。


『…おにい、ちゃん』

「大丈夫だ。二人で行くんだろ。」

『お兄ちゃん、もういいよ。私、もういいよ。』

「よくねぇ!!」




「春千夜くんっ!!」



「うるっせぇんだよ!!悪いのは…っお前等オトナだろうがよ…!」




教師も近所の奴等も、見て見ぬフリ。


知らぬ存ぜぬ。


助けてくれる人がいたら、こんな風にはなってなかった。


俺だって最初は思ったよ。


”誰か助けて”


誰が?


助けてくれる奴なんか居なかったんだ。



.


『お兄ちゃん…』



その場で泣き崩れた俺を見て、オトナはすぐさま拘束し俺たちを引き離した。





『おにいちゃんっ…!』



じゃあな。幸せになれよ。

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りお - とっても刺さる素敵な作品でした(;o;)春千夜にも夢主にもガンダーラで幸せになってもらいたいと思いましたT^T (2021年10月31日 1時) (レス) @page17 id: fffe7db0be (このIDを非表示/違反報告)
れいん(プロフ) - 寝る前に読んでみたら 一つ一つの言葉が凄く刺さって 涙出ました (2021年10月31日 0時) (レス) @page16 id: 817f921072 (このIDを非表示/違反報告)
Ibibubu(プロフ) - 本当に作者様の書いた作品が凄く好きで、素敵な作品をありがとうございます (2021年10月29日 23時) (レス) @page18 id: 9aefec9a34 (このIDを非表示/違反報告)
りぃ - すごいな、これ… (2021年10月29日 1時) (レス) @page18 id: 0e789b8f74 (このIDを非表示/違反報告)
不夜城・レイス(プロフ) - 一行一行が凄い感動しました(泣) これからも応援してます! (2021年10月28日 19時) (レス) @page12 id: 23f9dcf647 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2021年10月24日 21時

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