７０ ページ19
・
トントンはきっと最初こそ勝負の結果だったとしても、使い魔としてグルッペンの側にいることが意外にも気にいっていたのではないだろうか。でなければ、あんなに楽しそうに掃除をしたり、食事を作ったりなどしないはずだ。まして、力を節約だといい、自らの労力で働いたりするだろうか。
「トントン……」
そう思うと、いてもたってもおられずにグルッペンから離れて、今にもどこかに行ってしまいそうなトントンに向かって手を伸ばす。
「おい」
だが、不満げな声と同時に後ろから腰に腕を回され、もといた場所……の隣に腰を落とすはめになった。そこは、グルッペンの膝の上で。
首筋に感じる息と、背中に感じる体温に、心臓が跳ね上がる。頭に上った血が、声まで上ずらせる。
「ちょっと、何してるのよ！」
先ほどまでの緊張感などまるでない悲鳴を上げ、いつの間にか身体に巻き付けられていた腕をパシパシと叩く。
引っ張っても離れる素振りもないその腕の持ち主を、首を回して睨もうとして、失敗した。
すぐ目の前に青色の瞳があった。息がかかるほど近くにグルッペンがいて、その視線が今まで見たこともないような感情を浮かべてAを見ている。
その視線に込められた熱に絡め取られるように身動きさえ取れなくなる。
「グルッペン……」
掠れた声はどこまでも弱々しく。
唇をかすめる吐息は熱くて。
身動きさえ出来ない現状から逃げ出したくて、目を閉じた。
「そういうことは、俺がいなくなってからにしてや」
冷ややかな声音に、ハッと振り返る。
忘れていたわけではなかったが、完全に無視した状態だったこと思い出し、今度は血の気が下がる。
「なんだ、まだいたのか。さっさと呪いを解いて行きたいところに行け」
Aの身体にまわした戒めを解く気もなさげに、グルッペンはそのままAの首筋に顔を埋める。
「ちょっ、グルッペン！」
身を捩りながら、再びグルッペンの腕をパシパシと叩く。
その一方で、呆れきった表情を浮かべたトントンに、Aは溜息をつかれつつ名を呼ばれた。
「Aさん」
「なに？」
身体に巻きつく腕と悪戦苦闘していたAは、いつの間にか目の前に来ていたトントンに気づかなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 170人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヒイラギ - やばい､､､最初から最後まで一気に見てしまった､､､神作品すぎます！ (5月20日 21時) (
レス) @page25 id: 04238311ec (このIDを非表示/違反報告)
夢喰(プロフ) - めっちゃ好きです！更新頑張ってください！！ (2022年6月12日 11時) (レス) @page19 id: 5ee2b54502 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ナツメ | 作成日時：2022年5月12日 17時
