【d!】かつては聖女、今は魔女 (ページ44)

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『……随分強いのね』

それは、Aがトントンの戦う姿を初めてみた素直な感想だった。
軍人なのだからある程度強いだろうということはわかっていた。
けれど、想像よりずっと強い。

圧倒的な攻撃力を持つズヴェールが相手なのだから、ほぼ防戦であることに代わりはない。しかしズヴェールからの攻撃を交わし、ギリギリのところからAが示した弱点の首をねらっている。
それも限界を見極めた上で、だ。

『……』

決して倒しておけるようにというのは、見栄ではなかったのだと思い知った。
軍人二人が壊滅状況に追い込まれる相手を、
一人で背負っても戦い続けられる。それが自分の家に竈を作っていた人物と同じだとは、Aの中ではどうも結びつかなかった。

(時間稼ぎというより、本気で狙いにいってるのね)

けれどそんなトントンを見て、少しだけ口元が緩んでしまった。

やってくれるじゃない。
口は動いたが、それは音にはならなかった。

しかし、この状況ならば何が一番効果的だろうか？自分がおとりになるつもりだったが、これならこのまま奇襲を仕掛けた方がいいだろう。トントンは完全にズヴェールの気を引いてくれている。

(……失敗してもこっちにスイッチできるような、大がかりな魔術を使うしかないわね)

そう考えたAは足で地面に文様を描いた。
そして精神を集中させ、呼吸を魔力の波にあわせた。体内の魔力はかなり消耗してしまっている。だからいつも以上に絞り出すような魔力操作が必要だ。
チリチリと身体のあちこちが痛み始めるが、このチャンスに二度目はない。

Aは手を空に向かって掲げた。
すると次の瞬間、宙に何本もの氷柱が現れた。
鋭い切っ先を持つ無数のそれらはズヴェールにまっすぐ向かった。

同時にAは今度は素早く左手を動かし、トントンの周囲に氷壁を立て、氷柱からガードした。
トントンはそれとほぼ同時に初期地点から後ろへ飛び跳ね離脱する。

ズヴェールには何本もの氷柱が突き刺さった。
しかし、それは首では無く、首を庇った尾であった。多量の氷柱が刺さった尾は、ぼろりとその場に落下した

(致命傷にはならなかったか！)

直後、鼓膜を切り裂くような叫び声が響きわたる。ズヴェールは身体を左右に振るい、完全に痛みに意識をもっていかれている様子であった。