【d!】かつては聖女、今は魔女 (ページ39)

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もっとも、ほかに適任な騎士がいても自分が役を担うつもりでいるし、そもそもズヴェールが再び現れないことのほうが理想なのだが。

tn「あと、もうひとつだけ知りたいことがあんねん。ズヴェールは移動しつつも、この森から離れずにいる。ただ、森の中では一定の場所にいるわけやない。この理由、わかるか？」

『……それは、食料庫が目の前にあるって思ってるんでしょう。いえ、食料どころか、おやつの扱いかもしれないけれどね』

三百年前頃の記憶でも、ズヴェールに故郷を襲われたという知り合いは何人かいた。なす術のない中、容赦なく襲われる……その、無念。聞いただけの話だが、思い出しただけで苦しくなる。
Aは険しくなるトントンの表情に、息を吐いた。

(この顔……トントンもその回答を想像はしてたってことね)

だからこそ、時間をみつけては必死に探そうとしているのだろう。

『あまり粘り強くて追い払い続けても、よその村に行く危険が生まれるだけだわ。早急に片づけましょう』

tn「おん」

そのためにもズヴェール探しと、戦場になるだろう森の雰囲気を覚えなければ。あとはトントンの仲間と合流して、本格的に作戦を考えれば＿＿そう思っていたそのとき、Aの背に急激に悪寒が駆け上った。直後、ラーピドが荒々しく鳴く。

(近くで、なにかが、起きている)

それはAだけではなく、トントンも感じていた。

Aはあたりを見回し、それからゆっくりと目を閉じた。
どっちの方向、なにがある……そう念じ、自分を中心に世界を探るように足下から気を分散させる。
そうしていると、瞼の裏にひどい光景が映った。

『二人、ひどいけが、してる……！ズヴェールから撤退中、追いつかれる……！』

その声を聞いた途端、トントンはAをラーピドに乗せた。

tn「方角は！」

『あっち！このまままっすぐ！』

tn「いくぞっ、舌、噛むなよ……！」

なんてことだ＿＿
早急にとは思っていたが、やはりタイミングは悪すぎる。
それも、こんな最悪の状況で訪れるなんて、と、嘆かずにはいられなかった。