【d!】かつては聖女、今は魔女 (ページ35)

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tn「実際のところ、あの魔物……ズヴェールが森のどのあたりを住処としているのかはわからへん。正確には住処なんてないのかもしれへん。いつも現れる方向はバラバラで、こうやって巡回して探してる。いまも、それなりの人数を森に投入しているんやけど、いかんせん広すぎるし、全員が入れば街の治安もやし、いざ見つかっても発見の合図に気付けへん」

『たしかに、連絡手段が開発されればいいんだけど、難しそうね。トントンも巡回してて私をみつけたの？』

tn「おん。当番やないけど、休憩時間はできるだけ回ってる。俺のところにはグルさんが飼ってる鳥が知らせにくることになってるから。ラーピドもズヴェールのにおいが嫌いなんか、相当探したがってるし」

森の入り口付近で速度を落としたトントンはゆっくりと口を開いた。

『そういえば、ラーピドってスピードもあるのに、スタミナもすごいのね。私がいままで見た馬よりも大きいし』

tn「ええ子やで。ただ、なかなか他の人には懐かないはずなんやけど、助けられたの、わかってんやろな。賢いから」

『そうなの？人懐こそうに思ってたけど……というのはおいといて。ここは、私と出会った場所とは違うわね』

tn「ああ。ここの近くに今の当番が巡回に出ているはずやから、先に紹介しつつ説明してもええかなって」

『……紹介、か』

自分を使えと言った以上、Aも嫌だとは言わない。
しかし、どう挨拶をすればいいのかわからない。グルッペンに対してはあちらの行動も大概だったので気にもしなかったが……改めて自己紹介となると、正直困る。『通りすがりの魔女ですが』で、大丈夫なものだろうか。

『いや、通りすがり……ではないか』

tn「どうかした？」

『……なんでもないわ』

言葉が出ないなら、最低限として手伝うことになった旨を伝えられればそれでいいだろうか？あとはトントンがなんなりとしてくれる……そう思いながら、Aは周囲を見回した。
道らしい道ではないので馬車は通れないだろうが、どこも馬が通れない場所はなさそうで、捜索はこのまま馬上でも続行できそうだ。