【d!】かつては聖女、今は魔女 (ページ28)

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そもそも、トントンら砦の軍人が敗れるようなことがあれば、街の住民は戦う手段などもたないだろう。
そうなる前にズヴェーリは必ず倒さねばならない魔物のはずだ。

(そうよ、トントン一人でも放置できなかった私が、そんなの知って放置できるわけないじゃない！)

この戦いに出たって、すぐに不老不死の魔女だと周囲に気づかれるわけじゃない。
倒して帰る、それだけさせてもらえれば満足だ。

『あなたはお礼でご飯作ってきてくれてたけど、もう十分お返しはもらったわ。利子分、払わせてもらってもかまわないかしら？』

そうだ、これでイーブンだ。
後ろめたくならない私のためなんだ、と、Aはトントンに詰め寄る。しかし彼は一瞬言葉を失ったものの、すぐにAの手をふりほどいた。

tn「あかん、危なすぎる。あんたは軍人じゃあらへん」

『あなたがあの高さから落ちても死なないようにできるくらいには、魔術を行使できるんだけどね？』

tn「せやけど」

『なに、私が根拠のない自信を持ってるって言いたいの？』

tn「それは……、でも、状況がちゃうやろ！」

『実力があるって言ってるのに、何が問題あるの？言ってみなさいよ』

なにかいいたい事があるならいえばいい。すべて反論してみせる。
＿＿そう、Aが睨み続けていると、
不意に後ろから大きな笑い声が届いた。

「なんだ、ずいぶん言い負けた様子だな、トン氏」

tn「グルッペン！」

トントンが驚いた声を上げ、そしてAは振り返る。
そこに立っていたのは金髪で、トントンよりも明るい赤色、ガーネットのような瞳の男だった。男は人のよい笑みをAに向けた。

gr「お嬢さん、初めまして。私はグルッペン。トントンの上官だ」

『……はじめまして』

たとえ上官だとしても、人の話を立ち聞きするのはどうだろう。
そう思えば挨拶する気もなくなるものだが、ここは砦の内部だ。一般人が立ち入るスペースだとはいえ、部外者なのは自分の方だ。そう思い直したAは、最低限の愛想さえ捨てた棒読みの言葉をグルッペンに投げた。