【d!】かつては聖女、今は魔女 (ページ27)

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しかし、口にしてしまったことはどうしようもない。
なるべくそれらしく聞こえるよう、Aは平静を装った。

『この砦には、魔術師……魔女か魔術法使いはいる？書物には、魔術の援護が望ましいと書いてあったわ』

tn「魔術を得意とする者は一人だけおった。けど……負傷した。怪我が酷くて、精神的な面からも戦いに戻れるかどうかは定かやない」

そう言ったトントンは視線を少しだけ落とした。
魔術を得意とするといっても、Aたちの時代とは“得意”だと言えるレベルが異なるのかもしれない。

tn「……俺は、まだ魔物が現れた現場に居合わせておらへん。だから、早く見つけて倒さなあかん思ってる。これ以上犠牲者は増やしたくない」

声に滲む悔しさに、Aも目を伏せた。

(守りたいのね)

絵に描いたような軍人、ないし騎士の気質だな、と、Aは思った。
それは皮肉でも何でもなく、ただただ、純粋な思いだ。
規範を口にすることができる人間は多くいるが、それを一分の隙もなく本心から言えるのは、さて、どのくらいの割合でいるだろうか？

そんなことを考えていたAの前で、トントンはゆっくりと立ち上がった。

tn「この辺りは今は本当に危ないから、早く自宅に戻った方がええ。途中までやけど、安全だと思うところまでは送るったるから」

『……ちょっと待って、今の流れでなんでそうなるの？』

tn「え？」

ひどくまじめな顔をしていたトントンは、Aの言葉に目を丸くした。
しかしその顔にAは長いため息をついた。

(強大な魔物から皆を守りたいと思うなら、手段を選んでる場合じゃないでしょうに)

そう思いながらAは腕を伸ばし、テーブル向こうにあったトントンの胸倉をつかんだ。そして、彼を下から睨み上げながら告げた。

『ねえ、忘れてない？私も魔女よ？』

Aの言葉に、トントンは目を丸くした。