【d!】かつては聖女、今は魔女 (ページ19)

今日:45 hit、昨日:2 hit、合計:258,722 hit

１８ページ19

・

しかしそうやって考えているうちにスープが空になってしまっていた。
Aはパンにチーズを挟んでを食べつつ、トントンが食べ終わるのを待った。しかし、今日は少しだけ量が少なかった気がする。そうAが密かに思っていると、不意にトントンは笑った。

tn「足りひん？」

『べ、別に……』

tn「足りんように持ってきたんやけど」

Aが人を殴りたくなったのは、恐らく三百年ぶりだった。
ただの変人ではなく性格の悪い変人か！そう睨むと、トントンは笑いながらカバンから少し大きめの缶を取り出した。

『……なにこれ』

tn「簡易の火起こし。で、これがフライパン。で、これを温めて、ちょっとバターおとして卵を割る。ああ、卵入れる前にハムも軽く焼いとくか」

器具の説明をしながら、トントンはてきぱきと準備を進めた。
フライパンがバターを溶かしたところで、ハムをまずは軽く炒める。そしてそのまま卵を落とし、少しだけ焼いてから水を入れた。舞い上がる水蒸気を逃がさないように蓋をし、それから待機。しばらくしてからふたを開けると、綺麗に卵が焼けていた。

tn「個人的な好みは半熟なんやけど……気に入ってくれるやろか」

『……』

いい匂いがする。
そう思ったトントンは、角型のパンに乗せられたそれを無意識のうちに受け取った。
そして迷いなくかぶりついた。

tn「ここに持ってくるには、スープくらいしか保温できひんし。ここで作るって言っても、この家には調理設備ってあらへんし」

『……』

そもそも調理設備を作るという発想がなかったということは、言うまでもない。
完全にワンルームの自宅は、どう考えても普通の人間が住むには苦労するのが目に見えている。家というより、むしろ小屋なのだから。

(魔女だから、何とかなってる……って、思ってるのかしら)