【d!】かつては聖女、今は魔女 (ページ13)

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Aが扉を開くと、空気を読んでかラーピドが外に出た。
青年も立ち上がり、そして部屋の隅で乾かしていた衣服を手に取り手早く羽織り、荷物を手に取った。
Aはようやく非常事態が終わりを告げる、と、長い息をついた。

『ここを真っ直ぐ下ったら、街道に出られるわ。街道に出るまではリリムの木が並んでいるから、外れないように気を付けて。轍(てつ)はないから、迷ったらあとは知らないわよ』

「ほんまに、何から何まで……」

『……改めてお礼なんて、来たら追い返すからね』

青年は、少し申し訳なさそうな表情を浮かべていたが、やがて背を向けて裸馬に乗り、Aが言った通りリリムの木に沿って去っていった。
それをAはほっとして見送った。

人に感謝されるなど一体いつ以来だっただろう。
そうは思うも、何百年も感覚を持っている自分が人と関わってもよいことなどないと、きっとない。

あの人はおかしい、呪われてるんじゃないか。
薄気味悪い、あの子、本当に聖女なの？

耳に残る言葉が思い出されて、Aは唇を噛んだ。

(別に、私が自分で聖女だなんて、言ったわけじゃないのに)

やっぱり自分が人に関わると碌なことがないに決まっている。
そう思ったAは、翌日からはそれまで通りの、再び人と関わることの少ない生活に戻る……はずだった。

そう、戻るはずだった、のに。

「先日はありがとうな」

『来るなっていったでしょ!!』

なんでやってきた、と、数日後の森には叫び声が響いていた＿＿＿