黒蝶の夜に第二部【ヤンデレ義理兄】 (ページ5)

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四翅目ページ5

一時間目は数学であった。
二次方程式の解の公式の問題。

ノートにペンを走らせ、問題を解いている私の耳元を「僕教科書持ってないんだよねー」という媚薬めいた声が擽った。

右隣を見れば、私の机で頬ずえをつきながら教科書を覗き込むそれはそれは綺麗な顔をした極夜君が睫毛が肩に触れてしまうのではないかという距離まで迫っていた。

A「………っ！？」

極夜「ふふっ、なあーに顔赤らめてるの？」

甘いマスクとは対象的な艶笑に、全神経が熱を帯びる。

極夜「何でそんなに顔真っ赤にしてるの？」

A「だっ、だから近いんですよっ！」

音速で隣の席から私の机に身を乗り出す相手から遠ざかるが…

白夜「僕も教科書持ってないや。」

右隣にはもうひとつの危険が潜んでいるようにも感じた。

白夜「て事で見せて欲しいな。」

にっこり。
口許に優美な下弦の月を浮かべる相手も、隙が無かった。

A「え…あ………うん。」

何と答えていいのか分からずに、うんと答えてしまう口は、脳の指令を完全無視している。

極夜「ずるい。僕にも見せて。」

両隣から私の机に乗り込まれて、私は今、押し潰されている状態にあった。

白夜「三人で見ようよ。」

A「あ…あのもう少し離れて…」

「俺が見せてやる。」

良く通る、バスの声と、ベルガモットの香りが背後から漂う。

振り返ると、頬ずえをついた海斗が、何も書かれていない真っ白なノートの隣に置かれた教科書を白夜君に渡した。

…ひと目で判った。

嗚呼、海斗は

怒っている。

けれど私にはその理由が解らない。

白夜「……えーっと、君は？」

海斗「御子神海斗だ。」

むすりとした表情は一ミリも変化する気配は無い。

極夜「へえー、御子神君…。宜しくね。」

しかし極夜君はそんな海斗の機嫌とは対象的に明るく振舞っている。

白夜「御子神……君？」

海斗「…ああ。」