1杯の珈琲【wrwrd】 (ページ7)

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7話ページ7

「いらっしゃいませー」
９時にこの店に来てもAさんはそう迎えてくれた。

「クッキーにメモ忍ばせるなんてかわええ事したなぁ。」
「お客様にこういうことってしちゃいけないじゃないですか...。他のお客さまにはやったことないですから、バレないようにって思ったんです。」

僕にしかやった事がないのか。それは嬉しい。

「編集聞きたくて。」
「Aさん、ほんとに実況一筋やな。あ、カフェも全力何やけど。なんかどっちかで良さそうなくらい両方すごいと思うで。」
「両方必要なんです。多くの人に会いたいので。」

社交的やな、と普段なら返すのだけど。
なんとなく、目が真剣だったので何かあるのだろうかと思った。

「...なんかあるんか？」

えっ、という顔をした後彼女は一瞬悩んだ。

「なんとなく、ですけど。大先生になら、話してもいいですよ。」

あ、お代は編集でお願いしますと付け足して。

彼女は昔バスで交通事故に遭い、記憶がぶっ飛んだらしい。母と父は既にその頃にはいなくて、お兄ちゃんと二人暮らし。

その兄と交通事故に遭ったのだが恐らく兄も記憶がぶっ飛んだ。

あまりに多くの人が病院に搬送され、特に重症だった人は手術を急ぐために付近の病院で手分けして運ばれた。

恐らくそこで、兄とわかれた。
その兄を探しているらしい。

「向こうが覚えてるのかも分からないですけど、何もしないよりいいなって。兄がいたこと以外なんにも覚えてないんです。」

それでネットと接客業という訳らしい。
いずれかイベントにもでて顔も少し晒して、探す。と。

「次は踊ってみたとか上げてみようかなって。でも踊ってみたで分かるもんですかね？歌ってみたもありですよね。」

相当考えてるようだが、何故僕に教えてくれたのか。本人曰く他に話した人はいないらしい。

「なんとなく、ですよ。」

あ、でもあなたではないですね。顔があまりにも似てませんから。声も似てないですし。

「教えてもらったんやから、編集、やるか。」

聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、さっさとこの話題を切り上げた。それを察したのか、Aさんも

「はい。お願いします。」

と、いつもの、僕のよく見る顔で微笑んだ。