山猫と山猫 ［尾形百之助］

二十八話 ページ29

陽「姉様、笑わなくなったね。」



そう陽風に言われても、私は何も思わない。



母が死んで2年。私は着実に実力をつけてこの家の武力の象徴となった。


朔太郎兄様は陸軍に行った。



そして、妹の月子に許婚ができた。





対面してすぐ、月子は許婚の花沢勇作に惚れた。





彼女はその日の晩、私にこう言い放った。




月「姉さんって可哀想だよねぇ。」


『なに？』



月「だって、母さんにも愛されてないし、父さんにも利用されてるだけで、召使からは恐怖の目で見られてる。



兄弟たちだって、あなたを励ますのは同情からだよ？


なんかごめんなさい、わたしだけ幸せになっちゃうね。


姉さんも、私みたいに運動音痴だったら良かったのに。」





『私は別に、愛されたいなんて思ってない。


結婚は1週間後だっけ？


とにかく、おめでとう。』





月子の部屋から出て、私はリビングのソファに倒れ込んだ。





それで、久しぶりに静かに泣いた。






いつのまにか陽風が私のそばに来ていて、
背中をさすってくれていた





陽「お姉ちゃん、泣かないで？

私、訓練頑張ってるお姉ちゃんすきだよ。


強くて、美人で私の憧れ。



　月子お姉ちゃんにあんなこと言われて反論もせずに祝福の言葉を言うような、


　お姉ちゃんほど優しい人見たことないよ。」





たとえその言葉が同情から出ているものだとしても


その時の私には陽風の言葉が嬉しかった。

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