山猫と山猫［尾形百之助］弍 (ページ6)

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五十三話ページ6

ついに感情の欠落を決断した児露助の判断を、
妻の八重子は責めなかった。

八「貴方の姉の死は、私もよく覚えています。

　だから私は貴方を責めません。」

Aの見舞いの日

八重子は愛する娘に向かって、おまえは誰だと問いかけた。

絶望するAの目がひどく心に刺さっていた。

しかし、会えなかった期間のことを話すAに
涙が溢れてしまう。

それは決して成長を喜んだのではない。

笑顔で話す我が子の感情を、これから消していくのだなと思うと

どうしても悲しみがこみ上げてしまったからだった。

Aが出て行ったあと

月子が八重子の心配をすると

八重子は月子を抱きしめ号泣したという。

八「私は自分を律するわ…だから月子、

　貴方も自分を律してひたすらにAの幸せを願ってほしい…！！」

家族それぞれが、どうすればAの感情は消えるか、と。

夜な夜な、兄弟は涙を流しながら考えたという。

朔「みんな耐えろ。俺たちはどれだけ泣いても死なない。

　でもAは、他人への愛を覚えたら死んでしまう！！」

三男朔彦は、小さい頃から自分の面倒を見てくれたAが大好きであった。

彦「おれ、姉上大好きだから頑張るよ…。

　姉上がちゃんと長生きできるように、
　おれ頑張るんだ…。」