山猫と山猫［尾形百之助］弍 (ページ32)

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七十八話ページ32

キ「白石はカムイコタンで俺の手をつかもうとする時…確かに躊躇した。

　白石が俺たちから離れようとしていたと仮定すると、一人で朝っぱらから月形で旅館の外をふらふらしていたことや、あれこれも合点がいく。

考えられるとすれば杉元のいうように、白石がずっと前から土方歳三と内通していたことだが…。」

永「この状況ならもう過ぎたことでは？」

杉「一度でも裏切ったやつは何度でも裏切る。」

ア「杉元…。殺さなくて済む人間は殺すな」

その後は軍都・旭川を巡回する彼らであったが、Aとキロランケは服屋へと来ていた。

『ごめんなさい、こんな時に私情で連れ出してしまって。』

キ「いいさ、あんたみたいな綺麗な人と廻れるなら大歓迎だぜ？」

Aはどれにしようか迷っていたが、軍都ゆえに兵服が多く出品されていたため、
前と同じように上は軍服、下はスカートという形で着ることにした。

『…外套も買っておこうか。』

キ「外套なら買ったぜ？サイズはこれでいいはずだが。」

キロランケはAのために外套を購入したが彼女はどうしてまだ関わって日の浅い自分に良くしてくれるのかと疑問に思った。

キ「男ってのはぁいつでも、綺麗な女に弱いんだよ。」

『…ありがとうございます。』

Aは店員にお会計を頼む前に、小さな熊の木彫りのキーホルダーを見つけた。

キロランケには内緒でそれを一緒に購入したAは買ったあとすぐに洋服に着替えた。

キ「やっぱ洋服姿がしっくりくるな！

　ほら、外套やるよ。」

『その…私男性に贈り物をしたことがないのでこういうのはよくわからないし、外套ほどのものは無理ですけど…。』

キ「ん？」

少しぎこちないが、Aはキロランケに先程の木彫りの熊を差し出した。

『アシリパから、アイヌにとって熊は大事なカムイだと聞いたので。

　お礼です。』

キロランケは一瞬真顔になったかと思うとつぎは涙を流し始めた。

あまりにおいおい泣くのでAは困り果てキロランケの背中をさすりながらコタンへと帰った。

コタンで待っていた杉元らはもちろん驚き、何があったと聞いた…。

『えっと、私が悪い…のかな。』

杉「もぉ、キロランケ！泣いてちゃわかんないでしょ！」

ア「キロランケニシパ！何があった！」

キ「俺はこの子ほど純粋な子を見たことがねぇ！」

周囲が呆れたのはいうまでもない。