山猫と山猫［尾形百之助］弍 (ページ22)

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六十八話ページ22

家の中にいた女性は吹き出す

杉元はまるで訳がわからないと言った表情だ

事態をいち早く悟ったAの顔はいつもの柔らかい面立ちではなくなにかを警戒するようなものだった。

尾「…。」

尾形はそんなAの顔をちらと見る

エクロクが家族の紹介をしている途中、アシリパはオソマに行くといって家から出ていく。

Aが(私も行こうか)という視線を送るがアシリパは首を振る

うちの便所の場所はわかりにくいと、エクロクの弟がアシリパの元へむかうがその足首に微かに見えた

"くりからもんもん"

これをAが見逃すはずもなかった。

尾「ムシオンカミって、どういう意味だ？」

無言のエクロクに尾形がさらに突き詰める

尾「もしかして分からんのか？」

エクロクは、アイヌにも方言があるため、ムシオンカミという言葉は聞いたことがないといった。

それに杉元は納得する訳だが尾形の追求は止まらない

尾「こいつら本当にアイヌか？」

『百之助さん。』

尾形がAをみると、彼女は前を見据えて話を始めた。

『去年の春、樺戸監獄から集団脱獄が起こったという話がありました。

話では、ある男が脱獄させたと言います。

その男は、典獄に化けて、非常時に一度全ての鍵が開く装置を内部からの脱獄の手引きによって開けたそうです。

男の名前は鈴川聖弘。

詐欺師で、いろんな人間に化ける天才です。

結婚詐欺を繰り返した罪で網走監獄へ収監されていましたが、最近脱獄したそうです。

そして脱獄させられた男の1人には、ある特徴があります。

脚に彫られたくりからもんもんです。

先ほどの礼拝、、。初めてアイヌに来た人ならだれも怪しいなんて思わないでしょう。

しかしアシリパは誰よりもアイヌの文化を重んじ、守っていく心があります。

残念でしたね、鈴川聖弘さん。

そして、あなたたちが、樺戸監獄から脱獄した囚人ですね？エクロクさん。』

エ「！！！！！」

杉「もう！Aさんまで！失礼じゃないの！

　ほらみてこの耳！シンナキサラじゃないでしょ！」

尾「福耳にしか見えないがな。」

鈴川聖弘は目の前の女の瞳に心を奪われそうであった。

真っ直ぐな瞳で自分を見つめるその瞳は
自分を見透かしているようで恐ろしくもあり、美しくもあったからだ。

「ウンカ、オピウキヤン！」

外から1人の女性が叫んできた。