春あらし《2》 ページ8
ある試合で、私は幸運にも泉先輩とペアになった。当然周りの女子からは羨望の目を向けられたけれど、それを妬んでとやかく言うような人はいなかったのが救いだ。
その際に、入学式以来ほぼ話したことのなかった彼と、初めてまともに会話をした。驚くことに泉先輩は私のことを覚えていて、あのとき迷子になってた子だよねぇ、などと少し意地悪そうに笑っていた。そんな表情さえも綺麗で、なんだか無性にズルいと思ってしまったことを覚えている。
それから、泉先輩は何かと私に話しかけてくれるようになった。とは言え、決して彼が私に恋愛的な好意を抱いていたわけではない。ただ彼は年下に甘く、生粋の世話好きだった。そりゃ、私だって勘違いしてしまいそうになるときはあったし、そうであったらどんなに嬉しいことかと夢を見ていた。だけれど、違ったのだ。
泉先輩にとっての私は、軽口を叩き合えるような仲の良い後輩。それだけで充分過ぎるのだけれど、関係はそれで止まっていた。
例えるなら、先輩と私の間には決して超えられない一つの線が引いてあって、どんなに仲良くなってもその線以上に親密になることは不可能だった。また、私自身もわざわざそれを踏み越えようとは思わなかった。傍にいられるだけで、それだけで良かったから。
だけれど、季節が巡るのは一瞬だった。泉先輩は三年生、私は一年生。一緒にいられる時間などたかが知れていた。
一年早く生まれていれば、もっと一緒にいられたのに。二年早く生まれていれば、一緒に卒業出来たのに。なんて、どうしようもないことばかり考えてしまう自分が嫌になる。
考えなければ悲しむ時間は減るというのに、いざこの時期が来るとどうしてもそのことばかりに囚われてしまう。先輩と過ごした一つ一つの出来事を思い返し、一人その跡をなぞって、それからもう二度とあの日々は戻ってこないのだと思って泣きそうになる。
全く、恋というのは残酷なものだ。目的と感情がいつも背中を向けあっていて、なんとも過ごしにくくなる。
そして、私がこれだけ思っていても、相手の関心の内側に私は少しも存在していないのだろうというペシミズム的な思考が、さらに私を落ち込ませた。私は名前を呼ばれるだけで舞い上がりそうなぐらい嬉しいのに、きっと貴方はそれすら知らないのだろう。
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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい！ 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (
レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました！ (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください！ (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)
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