友よ拍手を！《6》 ページ32
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「ーーねえっ、A！おれと一緒に、世界をぶっ壊そうよ。くだらない建前とか、役に立たない名声とかは全部放り投げてさぁ」
……それこそ、夢だよ。
彼だって本当は、そんなこと出来ないと分かっているはずなのに。なんで、なんで。
鼻の奥がつんと痛くて、涙が零れそうで唇を噛む。でも、そんな空虚で無謀な願いでも、彼が少しでもこの場所で、私のいる世界で生きる望みを持ってくれるのなら。
「……うん」
私は、それを肯定する。
ーー私が頷いたのを見たレオは、一瞬笑みを消した。だけれどまたすぐに、微笑を浮かべてみせる。ただしそれは先程までの純真な笑みではなく、あの埃を被った部屋で見た、脆弱な微笑みだった。
「……なあ」
いつのまにか、彼は波の上で立ち止まっていた。彼の日に焼けていない足を、透き通った波が撫でながら通り過ぎていく。ザザ、と幽かな波の音が、私と彼の間を抜けていく。
「ーーおまえは、おれのこと好き？」
その質問に、言葉を失ってしまった。本当は好きだと、大好きだと叫びたかったのに、彼があまりにも泣き出しそうな顔をしているから、喉に何かがつっかえて、胸が張り裂けそうな心地になってしまって声が出なかった。唇を微かに震わせる私に、レオは唇を引き延ばして微笑みを保とうとした。まるで、私のことを安心させるかのように。
どうして、レオはわからないんだろう。私はあなたのためならその夢にさえ寄り添えるのに。見返りも、肩書きなんてものもいらないのに。
ーーああ、ちがう、ちがう。
声に出ない叫びは無意味だ。俯いていても、彼に何一つ伝わらない。それは分かっているのに、どうしようもなく声が出ない。
そのうち、ついにぱたりと涙が一粒落ちた。砂浜に黒いしみが出来たかと思うと、そのしみがぐにゃりと歪む。頰が熱い。
「……大丈夫だよ」
真綿に包み込まれるような優しい声がした。瞳を上げると、朧げに映る彼の黄昏色。濡れた視界の中で、そのときたしかにレオは笑っていた。
「ーー友よ、拍手を！
＿＿＿＿＿喜劇は終わったんだ」
さらさらと波が彼の足を撫で、また去っていく。
続く
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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい！ 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (
レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました！ (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください！ (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)
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