友よ拍手を!《5》 ページ31
「やっぱりおれは、そうは思わないよ。叶わない夢を見たって、世界は輝かない。無謀な夢が連れてくるのは絶望だけだ」
自分の思い描いた夢が叶わないことを知れば、人は絶望する。彼は、輝かしい夢の裏側の絶望を見たのだ。空想を愛する彼にこんなことを言わせてしまうほど、現実は彼を酷く打ちのめしたのだ。
ーーでも、レオ。それは間違いだよ。
少なくとも、夢を見ている時間は全てが輝いてみえるものだ。たとえその輝きの先に底の見えない黒い沼が待ち構えていたとしても、夢を見ている一瞬だけは美しい空想の世界でいきることが出来る。だから、夢というのはきっとマッチ売りの少女が見た幻想のようなものなのだ。
「……レオは、やっぱりモーツァルトのこと嫌いなの?」
長い沈黙の果てに、私の口から出たのは見当違いの疑問だった。だけれど、彼は律儀に「ん〜?」と眉を寄せて考えてくれる。
「ん〜……わかんない!」
「えっ?」
突然、彼は本当に今まで引きこもっていたのかと思えるほど軽快に、飛び跳ねるようにして立ち上がった。そうして、まるで新種の生き物みたいに砂浜の上をぴょんぴょんとはねながら、波打ち際に向かう。
「あはっ、思ったより冷たい!」
白い波を蹴散らしながら、レオは笑った。それは久しぶりに見た、無邪気な笑顔だった。彼はズボンの裾が濡れるのも御構い無しに、寄せ返す波と戯れている。
「レオ、風邪引いちゃうよ」
「え〜、さっきは入らないの?とか聞いて来たくせに!矛盾してる〜、おれが言うのも何だって感じだろうけどっ」
言いながら、彼はくるりと私に背を向けた。目を離せば海に消えてしまいそうな気がして、慌てて彼のもとへ駆け寄る。踏みしめた白い砂浜が温かい。
「レオ、」
「A。おれはモーツァルトのこと嫌いだよ。でも、もしかしたら、嫌いじゃないのかもしれない」
「……へ……?」
彼は振り返った。先程と変わらない、子どものような笑み。そして、彼は大きく両手を広げて、その笑みで言うのだ。
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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい! 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました! (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください! (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)
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