ブライト・メイルの回顧録《3》 ページ19
……だから一年後、再び彼女があの太陽のような笑顔を浮かべて現れたとき、不覚にもあんぐりと口を開けて固まってしまった。
「プロデュース科一年生、七瀬Aです!好きな食べ物はミートソースパスタ、嫌いな食べ物はらっきょうで、趣味は」
「きいてません」
ぴしゃり、冷静に言葉を遮る。否、頭の中は割とパニック状態なのだけれど。
「なんで、きたんですか?」
そう問えば、彼女はきょとんと丸い瞳を瞬かせた。それは海の底を思わせる、心地よい深いブルー。「なんでって」声はさざ波に洗われている砂のような涼やかな音色。
「奏汰さんが来いっていったんじゃないですか」
「…………まったく、みにおぼえがないですけど」
「だって「正々堂々僕に会いにきて欲しい」って、」
「うわぁ、すごく『きゃくしょく』されてますね〜……?ぼくがいったのはたしか、『こっそりくるぐらいならせいせいどうどうにゅうがくしてこい』……みたいなことだったきがしますよ?」
「あ、ほら!身に覚えあるじゃないですか!」
「……」
ああいえばこう言う。悔しいけれど、今のは一本取られた。というより、上手く誘導されたと言う方が正しいだろうか。きっと、この天真爛漫を体現したかのような少女にそんな意図は無いのだろうけど、なんだか腹立たしい。
暫く、黙って彼女の方を睨んでいたけれど、彼女はそれを全く気に留める様子はなかった。むしろ、キラキラとしたひとみでこちらの挙動を待っているのだ。
それを見ていたら、あまりの阿呆さ加減に怒りがさっぱり失せてしまった。はぁ、とため息を一つ吐いてから、噴水の縁に腰掛ける。水中からあがると、ずしりと体が押しつぶされそうな感覚がした。
「…………わかりました。ごにゅうがく、おめでとうございます〜」
これでいいですか、と言うように、半ば投げやりな形式文を返す。こうすれば、すぐさま「嬉しいです!」やら「すごいでしょう!」やら、面倒くさい反応や歓声が返ってくることは目に見えていた。だけれど、何も言わないとさらに面倒くさいことになるのも明白だった。
ならば適当にあしらって、一年前のようにまた飽きた頃に帰ってもらう方がマシだ。
……ただし、彼女から想像していた返答は返ってこなかった。それどころか、返答そのものが返ってこない。不思議に思って、今まで頑なに見なかった顔をちらりと盗みみた。
ーー彼女は固まっていた。その表情からは、喜びは感じとれない。強いて言えば、少し驚いているようだった。
「……どうしたんですか?」
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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい! 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました! (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください! (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)
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