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トラジック・アイロニー《1》 ページ12

僕の背中には、いつだってひいやりとした暗い影が張り付いている。そしてその影は僕の背中に噛り付いたまま、一度だって離れようとしたことはないのだ。もしもこの世に神というものが実在するのなら、きっと僕は彼に嫌われている。その代わり、死神は僕を強く好んだ。この首にかざされた大鎌が、何よりの証拠だ。

ああ。死に愛された僕に恋われるなんて、可哀想な君。だけれど生憎、諦めてあげられるような性分ではないんだ。

いつこのか細い灯火が燃え尽きるか分からないのなら、それまでに君をこの手の中に。
そうして、その果てで死ねたのなら、僕は本物の天使になれる。


言うなれば僕は、命を懸けて恋をしていた。









「君は死についてどう思う? 」

彼女は、はっとして読んでいた本から顔をあげた。それもそのはず。普通の人間であれば、突如こんな質問をされたら誰だって驚き、気味が悪いと思うだろう。彼女は普通の人間だった。ただし、驚きはしても気味が悪いといったような表情は見せなかった。何故なら、彼女の読んでいた本はまさに死を題材にしたものだったからだ。

「英智さんに話しかけられるなんて、思ってもみませんでした」

数刻の沈黙の後、彼女ははにかみながらそう口にした。驚いた様子を見せたのは、それが理由だろう。


「ふふ、そんなに僕は遠い存在だった?」

「ええ。無礼な物言いになるやもしれませんが、私とは別世界の方ですから。学院でお見かけすることはあっても、まさか町のこんな図書館で、ましてや貴方様の方からお声をかけられるとは思っていませんでしたよ」


続けて彼女は、私のことをご存知なのですか、と首を傾げた。

うん、僕はずっと前から君のことを知っていたよ。正直にそう答えられたのなら良いけれど、その答えだと理由まで聞かれてしまうのは明白だった。そうしたら、僕が君のことが好きだからということまで白状しなければならなくなる。

だから、代わりに差し障りのない答えを口に出した。

「声楽科の白柳Aちゃん。コンクールでは数々の賞を受賞しているんだろう、それはそれは素晴らしい活躍だって有名だよ。だから、少し気になっていたんだ」

「それは……恐縮です、大分誇張されているようでお恥ずかしいですけど……」

そう言って彼女は、少し頰を染めた。控えめだけれど、その感情の起伏はわかりやすい。それから彼女は、先程の質問を思い出したかのように口を開いた。

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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい! 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました! (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください! (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雛菊 | 作者ホームページ:http://ない  
作成日時:2018年4月8日 1時

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