春あらし《5》 ページ11
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卒業パーティが終わり、家に帰ってベッドに転がると、何故だか彼の目の前では流さなかった涙が急にどっとあふれてきた。
だけれど、それを拭うような気力も無くて、私は枕に顔を押し付けたままわあわあと泣いた。もう二度と、明日学校に行っても先輩に会えないのだという事実が、今更その鋭さを露わにして私に襲いかかってきた。
私と先輩の繋がりは、学校しか無かったのに。今思えば、なんて脆い繋がりだったんだろう。この先何処かで先輩に会えることは出来るのだろうか。メールを送ったら先輩は答えてくれるのだろうか。心の中を、嵐のような激動が駆け巡る。これも全部、先輩のせいだ。
唇の隙間から溢れ出る嗚咽を押し殺し、辛い思いを飲み込もうとしても、胸に空いた大きな穴がふさがる気配はしなかった。
ーーねえ、先輩。泉先輩。貴方が大好きでした。叶わないことは最初から知っていたけど、それでも大好きだったんです。あたしは、好きになってしまった。
こんなことなら、好きにならなければ良かった。今から過去に戻れるのなら、私は先輩に会わない道を選ぶのに。こんな茨の道を歩むと分かっていたのなら、最初から進まなかったのに。
ぼろぼろと、止まる様子の無い涙が枕を濡らす。言うなれば、この涙は愛だったものだ。両の手のひらで抱えても足りず、指の隙間から溢れて零れ落ちてしまうような大量の愛。それを涙として流しきることで、最後の一滴までしぼりだすことで初めて、私は先輩への恋を忘れることが出来る。否、忘れなくてはいけないのだった。次に会うことがあったのなら、笑顔で久しぶりだと言えるようにならなくてはいけなかった。
私は枕から顔を上げ、半ばやけになった人のように乱暴に目元を拭った。
この恋慕は、ここで断ち切らなくてはならない。でも、どうしても私には、今までの記憶を全て捨て去ることは出来なかった。だからせめてそれだけは、大切な思い出として宝箱にしまっておこうと考えたのだ。
だってあたしは、大好きな貴方との、大好きなきらきらした思い出だけで、この先一生を生きていける。それぐらい、先輩が大好きでした。
ーー春、明かり一つない部屋の中。私の乾いた唇から漏れた好きでしたという独り言が、泡沫の夢のような片思いに幕を下ろした。
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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい！ 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (
レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました！ (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください！ (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)
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