思惑は意図じゃなくて恋心 /us ページ37
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金曜日の夜ともなれば居酒屋の忙しさは平日の比じゃない。
「すみませーん！」という声に焦りながら先に後ろのテーブルにビールを置きに行ってしまうことにした。
「お待たせしまし、うわっ！！」
「うおっ」
振り向きざまに足が滑った、と思った時にはもう遅い。
手に持っていたビールを黒縁のメガネをしたお客さんの脇腹付近にぶっかけてしまった。
こんなの怒らない方がおかしいよね！？
どうやって謝ればいいの、と焦りながらも思いっきり頭を下げて「大変申し訳ございません！！」と叫ぶように言った。
「いやあの、全然大丈夫です」
「えっ、でも、あの本当に...」
とりあえずキレ散らかすような人ではないことに安心したけど、それはそれでとてつもなく申し訳ない。
オロオロとしている私を見てその人は困ったように笑った。
「本当に気にしないでください。慣れてますから」
「...えっ、と」
予想外の言葉につい苦笑いしてしまったけど、この人はこの場を収めようとしてくれたんだと気付いた。
メガネさんの前に座る人は大笑いをしているし、反応に困った私は苦笑しているしで空気は微妙だったけど。
...それでも、こんな風に誰かに気遣える人ってすっごく素敵だなあ。
気付けば私はロッカーからハンカチを取り出してその人に渡していた。
「本当にすみません！これ、新品なので使ってください」
「あっ、ありがとうございます」
さっきの困ったような顔じゃなくて本心のような笑顔で受け取ってくれたことにホッとして、もう一度頭を下げてから仕事に戻った。
いつの間にかあの人のテーブルには別の人が座っていて、少しだけ、本当に少しだけ寂しい気持ちになった。
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思惑は意図じゃなくて恋心 /us→←なによりも特別な言葉 /ky
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作者名：ユシア | 作成日時：2020年2月1日 12時
