人間味 ページ29
「……は?」
間抜けに声を漏らした口は塞がることなく、セナツの腕に視線は固定される。
「この子、連れていってくれないかしらねぇ?」
「は……?」
相変わらずほわほわと柔らかな話し方を続ける彼女に、レイラはまたも声を漏らした。
「私が見つけた卵なんだけど……どうやら温めるだけではダメみたいなのよ〜……
トレーナーさんと一緒に旅をする必要があるみたいでね〜……老いてしまった私には少し難しいのよ〜……!
貴女みたいな良いトレーナーさんなら安心して任せられるわ〜!」
はい、と流れるように手渡されたそれをレイラは落とさないように慌てて抱え直す。
「ちょ……アタシは……貰うとは……」
レイラの言葉を最後まで聞くことなく、セナツはひらひらと手を振って姿を消してしまった。
残されたのは呆気に取られるレイラと、腕の中の静かな卵。
微かな温もりをもったそれにレイラは状況を受け止めたようで、
「……生まれてくる奴に罪はないよな……
こんなアタシがトレーナーでも……
文句言うなよ……?」
つるつると触り心地のよい殻を撫で、レイラは小さく呟いた。
<へぇ〜!ポケモンの卵か〜!>
ホログラム越しに驚くオダマキに、レイラはコクリと頷いた。
「どうやって……連れ歩くのがいい……?」
面倒なことになったという言い分とは異なり、無意識に卵を気にかけている彼女にオダマキは小さな笑い声を漏らした。
「何……」
ベッドの端に腰掛けて膝上に卵を転がすレイラは、異質なモノを見るような目でオダマキを見返す。
<いや、何でもないよ……!>
慌てて首と手を大きく振った彼は、わざとらしく咳払いをして見せた。
<ポケモンの卵は例の女性の言う通り、トレーナーが連れ歩くことで孵化するらしい。
連れ歩く方法として妥当なのは抱えて歩く事だね。その方が孵化するのが早いらしいし……>
更に文献を漁り始めたオダマキを放置し、容赦なく通信を切るレイラ。
情報には満足したようだ。
と、
「ギャララッ」
とぐろを巻いたギャラドスが珍しそうに卵に顔を寄せる。
「……間違えて……食べんなよ……?」
少し強めに注意を促すマスターに、ギャラドスも思わず小さく笑ってしまった。
「お前まで……何だよ……」
なぁ、と卵に尋ねるも答えが返ってくる筈もなく。
本人が気が付くことないが、
この旅で彼女の人間味は少しながらも増していたのだった。
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CrazyBook(プロフ) - コメントありがとうございます!本当に気長にお待ちください。 (2019年8月12日 9時) (レス) id: 89127ffd6d (このIDを非表示/違反報告)
菜々美 - この作品好きです!ゆっくりでいいので更新頑張ってください。 (2019年7月18日 16時) (レス) id: 179628e6fd (このIDを非表示/違反報告)
CrazyBook(プロフ) - かしわさん» コメントありがとうございます!完結するまで更新し続けますので気長にお付き合いください! (2019年3月24日 21時) (レス) id: 8c59f4ad06 (このIDを非表示/違反報告)
かしわ - この作品好きです。更新頑張って下さい。 (2019年3月23日 1時) (レス) id: 356d08c55f (このIDを非表示/違反報告)
CrazyBook(プロフ) - ルインさん» コメント、ありがとうございます!嬉しい限りです!これからも気長に読んでください! (2018年7月19日 19時) (レス) id: 31b46a970e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:CrazyBook | 作成日時:2018年3月28日 22時