三十九話 ページ40
簡単に風邪を引くほど柔な身体ではない。
それに近藤が回した妙な気遣いもやや居心地が悪い。
拗れないうちに何とかしようと口を開きかけた時、不意に腕を引かれた。
鼻腔をくすぐる煙草の匂いに、それが誰だか悟る。
「ちょっと借りる」
腕を掴まれたままのAは、口をぽかんと開けてその顔を見やる。
さっさと立ち去ろうとするその背中を、山崎は慌てて引き留めた。
「ふ、副長!?何で!?」
「トシ…………?あれ、これってそういう感じ?」
(全然違います!!)
近藤の見当違いな推察に、出かけた叫びを飲み込む。
最初こそ驚いたが、Aは土方の自分への用事を大方察していた。
この場から逃げ出す口実としてもちょうどいい。
「あ、あ〜………あのことですね。はい、行きましょう!」
それらしく言ってはみたが白々しかったらしい。
Aの態度に土方は眉根を寄せる。
もっと上手い返しはないのかと言わんばかりの視線が突き刺さった。
「………悪いな、近藤さん。ここは少し任せた」
土方はAの猿芝居に気づかなかった振りをして、近藤に一言だけ断りを入れる。
山崎のことは端から視界に入っていないかのような扱いだ。
やや不満げな山崎を他所に、土方はAを連れてその場から離れていった。
***
「さっきのは何だ」
「いえ、準備してればもっと上手いんですよ」
「どうだか」
雑談というには淡々とした会話が続く。
揃わない足音の方がよっぽど賑やかだ。
祭の会場から少し離れたところで、やがて土方は立ち止まる。
ぼんやりとだが、会場の灯りが届くぎりぎりの場所だ。
彼のしようとしている話の内容を考えるともう少し離れた方がいいとも思えたが、Aは何も言わなかった。
土方はAを振り返ると、その場でじっとAを見据える。
「……将軍に会った後、勝手にどっか行ったな」
「はい」
「まァそれはどうでもいい」
だったら何故聞いた。
むっとしたAの様子に、土方はまた気づかなかった振りをする。
そして一言。
「信じていいんだな」
その声は無感情で何を考えているのか分からない。
―――本当はそうでないのかもしれないが、Aにはまだ分からない。
しかし、夜闇の中で鈍く光る眼光を、Aは正面から受け止めた。
「はい」
「…………そうか」
ならいい、と土方が言えば、いつの間にか緊張していた空気が緩んだ。
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梓 - ほんとにほんとに面白いです!!!更新頑張ってください!待ってます!(返信不要です汗 私が勝手に想いを伝えたかっただけなので…) (2020年7月1日 21時) (レス) id: b54ff5a336 (このIDを非表示/違反報告)
Lea - ほわいとさん» わ、わ、はじめまして!めちゃくちゃ更新に間が空いてすみません!当時見ていてくださったんですね、ちょっと恥ずかしいですが嬉しいです!ありがとうございます!リメイク版はまた展開をちょこちょこ変えるつもりなので、その違いも楽しんでいただけたらと思います! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
ほわいと - はじめまして、当時この小説にハマっており数年後の今リメイク版を出されるとは思わず感動していますメッチャクチャ嬉しいです!!これからも応援しております (2020年6月20日 17時) (レス) id: 02cfa52dfe (このIDを非表示/違反報告)
Lea - 一寸先はダークさん» ありがとうございます!その辺りめっちゃ頑張って書いたので嬉しいです!!ザキの事情は当時かなり衝撃を受けました笑これから数話を高杉に割くので、彼のことも見てやってください〜 (2020年6月8日 11時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
一寸先はダーク - Leaさん!とても面白いですね!!ザキが可愛かったです。元ヤンには見えないなぁw。銀さん達との再会とかも描写がとても綺麗で想像しやすかったです!更新無理せず頑張って下さい!応援してます! (2020年6月7日 13時) (レス) id: 771b180e53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Lea | 作成日時:2020年6月3日 12時