【銀魂】光翼鳥の剣：re2

三十五話 ページ36

その男を、恐ろしい獣だと思っていた。

男の態度は攻撃的と言うよりむしろゆったりとしている方だったが、絶対に深く関わってはいけないと直感させられた。

そのためだろうか。

河原で初めて男に会った時、源外は余計なことは何も言わなかった。

男の話にただ一言、「そうか」と答えただけである。

しかし二度目に会ったその男に、源外は思わず余計な口を開いた。

「…………お前、本当にあん時の奴か？」

「………あァ」

どうせ返事を寄越すならもっと愛想よくすれば良いものを、男は興味がなさそうに視線をそらす。

そこで初めて、源外は彼の左目の包帯がなくなっていることに気が付いた。

思っていたような生々しい傷こそ無いが、瞼は固く閉ざされているのが分かる。

戦争で失ったものの一つなのだろうか。

「………何の用だ。俺を始末でもしに来たか」

そう言った自分の声は想像より落ち着いている。

心拍数の上がっていた心臓も、落ち着きを取り戻し始めていた。

対する高杉は、源外の言葉を軽く鼻で笑う。

「んなことして俺になんの得が……………！？………ってぇ………」

暗くてよく見えなかったが、隣の女から肘鉄を食らったらしい。

脇腹を抑えて痛みをこらえる高杉を横目に、源外は女の方を見やった。

女は眉尻を下げて誤魔化すように微笑みながら、「上条Aです」と小さく名乗る。

その表情も口調も、とても悪い人間には見えない。

このAと名乗る女が、男に何かしたのだろうか。

源外は怪訝に思いながら「なら」と問いを重ねる。

「謝りに来たとでも言うつもりか？」

「………だったらどうする」

虚を突かれて言葉を失う。

しかしそれは一瞬のことで、その驚きは忽ち苛立ちへと変わった。

若造が、馬鹿にしてくれる。

全て自分の思い通りになるとでも思っているつもりか。

源外はもはや躊躇うことなく怒りをそのまま口にした。

「だったらお門違いだ、失せな。お前ェがああ言ったからこうなったと思うな。俺ァてめーの筋通そうとしただけだ」

「んなことどーでもい………いわけじゃねェが」

女の顔色を窺いながら言葉を選ぶ男は、似つかわしくないほど滑稽だ。

何だか毒気が抜かれてしまう。

「………じゃあ、何を」

わずかに語調を緩めて問いかける。

すると、高杉の声にもまた、小さな変化が起こった。

「………お前の嘆きに付け入ろうとしたことを」

努めて無感情を取り繕おうとする声が、やけに耳に残った。

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