三十四話 ページ35
「……ハッ……ハッ………」
騒動の収束を告げる落ち着いたざわめきを背に、平賀源外は一人河原を走っていた。
将軍の首を狙った罪人を追う、真選組の追跡を逃れてのことである。
彼は見世物の際にカラクリの砲門で将軍を狙った。
テロを起こそうとしたわけでも、幕府に殺された息子・三郎の仇を討とうとしたわけでもない。
ただ生きることに疲れた、それだけだった。
それを銀時と他でもないカラクリの三郎に止められ、彼はこうして逃がされた。
死のうと思っていたはずなのに今必死に走っているのは、ただ長生きしてみようと思わされたからだ。
三郎と同様に攘夷戦争で戦い、そして生き残った男に。
死んだ人間の中にはかけがえのない者もいただろう―――そう言った自分の言葉で、瞳に陰を落としたあの男に。
彼が、銀時が大切なモノを多く失ってきたのであろうことは察しがついた。
それでもなお真っ直ぐに生きようとする彼に、年甲斐もなく感化されてしまったのだろう。
大罪人である自分は、暫く堂々と太陽の下を歩けそうにない。
しかしそれでも、生きてみようと思った。
今よりずっと年老いて死んだ後に、息子に胸を張れる自分であるために。
息子の顔を思い浮かべ、思わず口元に笑みを浮かべたその時、正面から人影が近づくのに気付いた。
真選組だろうか。
「止まれ」
人影の声に制止され、進行を止めると共に二、三歩後ずさる。
体力は限界に近かったが、相手が真選組なら全力で逃げるつもりだった。
このまま何も成し遂げないままに、最期を迎えるつもりはない。
足音と共に、人影は次第にはっきりしてくる。
二人―――そして一人は女だ。
真選組ではない、そうほっとしたのも束の間。
知らない女の隣にいる男の姿に、源外は戦慄して息を呑む。
その男と会うのは二度目だ。
一度目も同じ河原だった。
攘夷戦争での息子を知っていると語った男。
この男から息子の無惨な最期を聞かされ、蓄積された迷いは決意に変わった。
男の正体は過激派の攘夷志士、高杉晋助。
彼が自分を利用しようとしていることは容易に想像がついた。
しかし、彼の思惑通りに動きながらも、手駒になってやったつもりはない。
だというのに、この男は将軍の暗殺に失敗した自分をわざわざ始末でもしに来たのだろうか。
忘れもしない、陰鬱な狂気を瞳に宿しながら。
確かめるように恐る恐る目の前の男の瞳を見やると、その奥に映る色の変化に、源外は全身から力が抜けるのを感じた。
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梓 - ほんとにほんとに面白いです!!!更新頑張ってください!待ってます!(返信不要です汗 私が勝手に想いを伝えたかっただけなので…) (2020年7月1日 21時) (レス) id: b54ff5a336 (このIDを非表示/違反報告)
Lea - ほわいとさん» わ、わ、はじめまして!めちゃくちゃ更新に間が空いてすみません!当時見ていてくださったんですね、ちょっと恥ずかしいですが嬉しいです!ありがとうございます!リメイク版はまた展開をちょこちょこ変えるつもりなので、その違いも楽しんでいただけたらと思います! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
ほわいと - はじめまして、当時この小説にハマっており数年後の今リメイク版を出されるとは思わず感動していますメッチャクチャ嬉しいです!!これからも応援しております (2020年6月20日 17時) (レス) id: 02cfa52dfe (このIDを非表示/違反報告)
Lea - 一寸先はダークさん» ありがとうございます!その辺りめっちゃ頑張って書いたので嬉しいです!!ザキの事情は当時かなり衝撃を受けました笑これから数話を高杉に割くので、彼のことも見てやってください〜 (2020年6月8日 11時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
一寸先はダーク - Leaさん!とても面白いですね!!ザキが可愛かったです。元ヤンには見えないなぁw。銀さん達との再会とかも描写がとても綺麗で想像しやすかったです!更新無理せず頑張って下さい!応援してます! (2020年6月7日 13時) (レス) id: 771b180e53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Lea | 作成日時:2020年6月3日 12時