二十七話 ページ28
ああ、そうだ。
最初からこうすれば良かったんだ。
あの頃の自分はどうかしていた。
ゆっくりでいいとか、今言ったらアイツを困らせるとか。
大切にしようだとか。
四人一緒の関係も心地いい、だとか。
そんなくだらないモノに拘ってたから失ったんだ。
アイツの、せいで。
***
「晋助……」
男の目を真っ直ぐに見据えながら、Aはそう呼びかける。
しかし目の前の男は、視線を宙に彷徨わせたまま、口元に笑みを浮かべるだけだった。
その瞳の奥には、黒い狂気の炎が彼を焦がさんばかりに揺らめいている。
「………A…………」
熱にうなされたようにそう呟く男の目に、彼女は映っていない。
言葉に尽くし難い得体のしれない感覚に、Aの背中に冷や汗が流れた。
そうやって名前を呼びながら、本質的には今目の前にいる自分のことなど全く眼中にないのだ。
彼は今、別の何かを見ている。
「晋助!私を見て!!」
胸に手を当て、もう一度大声で呼びかける。
男はそれを了承とでも思ったのだろうか、口の端を釣り上げてぼんやりと笑った。
「―――あァ、言ったじゃねェか。俺はお前だけを見てきたって」
「!」
そう言って再び伸ばされかけた手を、Aは避けるようにして男の身体に体当たりする。
意外な行動と突然の衝撃に耐えられなかったのか、男は地面に倒れ伏した。
「“私”を“見て”!!」
強調しながら何度も繰り返す。
いつの間にか握りしめた拳が震えた。
その尋常ではない様子をさすがに不審に思ったのか、男は顔から笑みを消した。
「……何が言いたい」
すぐには答えず、Aは足を前に踏み出す。
後ろ手をついて地面に座り込んだままの男に跨って襟首を掴むと、その目を強く睨みつけた。
「……晋助、あなたは…………」
そう言いかけた瞬間、背中の方から強烈な爆発音が鳴り響き、Aの耳をつんざく。
思わず振り返れば、その方角は間違いなく真選組と将軍のいる場所だった。
もくもくと黒煙が上がり、人々の悲鳴が聞こえてくる。
事故か、いや。
動きかけたAの思考は、一つの笑い声によって押しとどめられた。
確かめるまでもない、今下にいる男からのものだ。
「……くくっ…………ようやく始まったか」
「…………どういうこと」
男を振り返り、声を抑えて尋ねれば、彼は口端に残忍な笑みを浮かべた。
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梓 - ほんとにほんとに面白いです!!!更新頑張ってください!待ってます!(返信不要です汗 私が勝手に想いを伝えたかっただけなので…) (2020年7月1日 21時) (レス) id: b54ff5a336 (このIDを非表示/違反報告)
Lea - ほわいとさん» わ、わ、はじめまして!めちゃくちゃ更新に間が空いてすみません!当時見ていてくださったんですね、ちょっと恥ずかしいですが嬉しいです!ありがとうございます!リメイク版はまた展開をちょこちょこ変えるつもりなので、その違いも楽しんでいただけたらと思います! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
ほわいと - はじめまして、当時この小説にハマっており数年後の今リメイク版を出されるとは思わず感動していますメッチャクチャ嬉しいです!!これからも応援しております (2020年6月20日 17時) (レス) id: 02cfa52dfe (このIDを非表示/違反報告)
Lea - 一寸先はダークさん» ありがとうございます!その辺りめっちゃ頑張って書いたので嬉しいです!!ザキの事情は当時かなり衝撃を受けました笑これから数話を高杉に割くので、彼のことも見てやってください〜 (2020年6月8日 11時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
一寸先はダーク - Leaさん!とても面白いですね!!ザキが可愛かったです。元ヤンには見えないなぁw。銀さん達との再会とかも描写がとても綺麗で想像しやすかったです!更新無理せず頑張って下さい!応援してます! (2020年6月7日 13時) (レス) id: 771b180e53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Lea | 作成日時:2020年6月3日 12時