二十五話 ページ26
***
「………っ………やめて!!!」
唇の離れた一瞬の隙をついて、男の顔を押しのける。
男はAの青ざめた顔を、切なげに眉根を寄せて見下ろした。
「………………!!」
狂気の薄れたその目は、確かに記憶の中の「高杉」の目だった。
Aを不器用に優しく見守ってくれた目。
それを曇らせた罪悪感で、傷つきたいのは自分の方なのにズキリと胸が痛む。
自分は何か知らなければならないことに気が付いていない、そんな気がした。
しかし、それが何なのか分からない。
分からないから、きっと尋ねるしかないのだろう。
皮肉なことに、銀時が欲した「きっかけ」が、今こうしてここで起ころうとしていた。
「…………………どうして、そんな顔するの」
そう言ってAは強張った顔をわずかに歪ませる。
きっとそれは、今の高杉の鏡写しだった。
なんて情けないツラだ。
高杉は自嘲するように微笑んだ。
「届かないからだよ。お前に」
「……………何が?」
彼の手が伸ばされ、Aの頬にそっと触れる。
今度は拒絶出来なかったし、しようとも思わなかった。
それが過ちだったかは、これから先何度振り返っても分からない。
高杉は壊れ物を扱うように、彼女の顔を包んだ。
冷えた頬に、彼の熱が伝わってくる。
「一人の男として、お前を愛してることが」
「え……………」
背を丸めて目を合わせ、やがて高杉はAに唇を重ねた。
先程背に走った悪寒の代わりに、今度は心臓がドクリと音をたてる。
大切な人だった。
家族を失い、独りになった自分に生きる目的をくれた大切な幼馴染。
彼らは「彼ら」で、もちろん性差は理解しているが、そこに生物学的な区別以上の男女の情の交わりなど無いはずだった。
無い、つもりだった。
知らなかった。
彼が、彼らが「男性」なんて。
「……………あ……………」
「…………A?」
気づいてしまった瞬間、身体中の血が一気に沸き立つような感覚を覚える。
訝しげな高杉の視線から逃げ出したくなる衝動は、頭ではなく鳴り響く心臓が訴えかけてくる。
顔が熱い、心臓がうるさい。
その感覚は、山崎に笑顔を褒められた時の延長に思えた。
あの時に感じた異性への緊張と気恥ずかしさを、今自分は目の前の幼馴染に感じている。
唇を合わせるという行為による、より強い波のような初めての衝動を伴って。
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梓 - ほんとにほんとに面白いです!!!更新頑張ってください!待ってます!(返信不要です汗 私が勝手に想いを伝えたかっただけなので…) (2020年7月1日 21時) (レス) id: b54ff5a336 (このIDを非表示/違反報告)
Lea - ほわいとさん» わ、わ、はじめまして!めちゃくちゃ更新に間が空いてすみません!当時見ていてくださったんですね、ちょっと恥ずかしいですが嬉しいです!ありがとうございます!リメイク版はまた展開をちょこちょこ変えるつもりなので、その違いも楽しんでいただけたらと思います! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
ほわいと - はじめまして、当時この小説にハマっており数年後の今リメイク版を出されるとは思わず感動していますメッチャクチャ嬉しいです!!これからも応援しております (2020年6月20日 17時) (レス) id: 02cfa52dfe (このIDを非表示/違反報告)
Lea - 一寸先はダークさん» ありがとうございます!その辺りめっちゃ頑張って書いたので嬉しいです!!ザキの事情は当時かなり衝撃を受けました笑これから数話を高杉に割くので、彼のことも見てやってください〜 (2020年6月8日 11時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
一寸先はダーク - Leaさん!とても面白いですね!!ザキが可愛かったです。元ヤンには見えないなぁw。銀さん達との再会とかも描写がとても綺麗で想像しやすかったです!更新無理せず頑張って下さい!応援してます! (2020年6月7日 13時) (レス) id: 771b180e53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Lea | 作成日時:2020年6月3日 12時