【銀魂】光翼鳥の剣：re2

十四話 ページ15

「あ、うまい」

瞼を開けば、たこ焼きはもう目の前になかった。

本来新八の口に入るはずだったそれは、今現れた男に堪能されている。

「おっ……沖田さん！！」

意外な人物の登場に、新八の声は上擦った。

しかし、同じ真選組隊士である山崎がいるとなれば、当然沖田もいるだろうとすぐに納得する。

沖田はかっさらったAの手首を握ったまま、「もう一個」と人差し指を立てた。

それを聞いた神楽は、Aの腰を抱く腕に力を込めて沖田を睨みつける。

「このたこ焼きは私のものネ！お前はさっさと帰ってクソして寝るがヨロシ！！」

「あァ？お前が帰れ、クソガキ」

火花を散らす二人に挟まれたAは、困ったように眉尻を下げた。

「ええっと……とりあえず手首放してください」

「いいぜ、じゃァ俺にたこ焼きを献上すると誓え」

「今から買いに行きますって」

どうせ再び買いに行かなければならないのだ、一つも二つも変わらない。

そう言えば、沖田は少し不満げに手を放した。

ついでに神楽の首根っこを掴んでAから引き剥がす。

手段はどうあれ晴れて自由になったAは、山崎を振り返った。

「じゃあ私行ってくる。退、これうまく配分してあげて」

手渡されたたこ焼きを、山崎は頷きながら受け取る。

「わかった。Aさん、気を付けてね」

「はーい」

山崎は心配症だ。

そう思いながら、軽く答えて人混みに入ろうとしたその時だった。

「A」

不意に呼ばれた名前と、その声のイメージが一致せず、Aの思考は一瞬停止した。

知ってる名前と知ってる声。

それなのに、その二つがどうしても結びつかない。

自分を呼び捨てにするような男性は、今この場には一人もいない、はずで。

ゆっくりと振り返れば、己に掴みかかろうとする神楽を押し止めている沖田と目が合った。

「迷子になんなよ」

沖田はそう言いながら、口元に笑みを浮かべる。

江戸に来た直後に迷子になった自分をからかっているのは分かったが、今のAはそれ所では無かった。

「あ、の……沖田さん、名前……」

「総悟でいい」

「は」

「俺とアンタの仲だろ」

そう言って目元を細める沖田が、Aにはいつもより大人びて見えた。

「………そう、ご？」

何故か上手く言えずに首をかしげるAに、沖田は静かに微笑んだ。

しかしまあ見せつけられる方は堪ったものではなく。

わざととしか思えない沖田の行動に大きく肩を落とす山崎を、新八はそっと慰めた。

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