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七話 ページ9

同時刻。

とある山奥には一つの小さな家が建っていた。

風が吹けば、家を取り囲む見事な竹林がそよそよと揺れる。

その近くにぽつんと立てられた小さな墓石の前で、一人の女が手を合わせていた。

真剣に祈る横顔は、すっきりと美しく、彼女の中に流れる血を明瞭に表していた。

「……今迄ありがとうございました」

そう呟けば、今迄のことが先日のことのように思い起こされる。

ある日、崖下で瀕死の状態で倒れていた彼女を助けたのが、今この墓で眠っている老婆だった。

女にとって、この老婆はまさに命の恩人。

そんな老婆をこの山奥に一人置いていくのは気が引けたが、住み慣れたこの地で眠りたいというのが、老婆たっての希望だった。

女は別れを惜しむように墓を見やると、やがて荷物を手に持って立ち上がった。

女の目的地は江戸。

ここからは恐らく数日かかるが、そのための蓄えは十分にある。

後は、江戸での新しい暮らしが上手くいくことを祈るだけだ。

「行ってきます!」

女は住み慣れた家と、墓に眠る老婆に向かって一度だけ振り返り、後は前だけ見て歩いていった。

女の名前は、上条Aという。

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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時

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