五話 ページ7
「ぐっ……うぅ……」
「ぎ……銀時……」
銀時はAの手を強く握りしめた。
Aの足は宙をさまよい、その下からは深淵が彼女を呑み込まんとしている。
「だ……だめだよ、銀時……。このままじゃ、二人とも」
「黙ってろ!!」
地面に立てた刀を支えに、何とか彼女を繋ぎ止める。
斬り合いと、先程の爆発の中で傷ついた全身が悲鳴を上げた。
銀時の身体から流れた血が、繋がれた手を介してAの腕を伝う。
Aは自分の心臓がずしりと重くなるのを感じた。
普段の銀時の力なら、崖に落ちかけているAの身体など、軽々と引き戻せただろう。
しかし、今の彼はどうだ。
傷だらけで、立っているだけで満身創痍ではないか。
このままでは二人とも死んでしまう。
Aは震える唇をぐっと噛みしめ、何とか口元に笑みを浮かべた。
怖くない。
怖くなんてない。
彼を道連れにして、死なせてしまうことに比べたら、ずっと。
「……銀時」
「…………A?」
訝しげに自分を見る銀時に、Aは必死に笑ってみせた。
「ごめんね」
「!?」
銀時が驚いた一瞬の隙をついて、Aは彼の手を引き剥がした。
瞠目して顔を引き攣らせる彼の表情が、Aの目に焼き付いて離れない。
ごめんね。
そんな顔しないで。
……泣かないで。
Aはまた震えだした唇で何とか言葉を紡いだ。
い き て
それが、彼に伝わったかどうかは分からない。
その一瞬の後、急に流れの早くなった時間を感じながら、Aはそっと目を閉じた。
***
「なんだこれは…!」
辺りの土煙がようやくやみ、戦いは攘夷志士の辛勝という形で幕を閉じた。
姿の見えない銀時とAを探してやって来た桂、高杉、坂本の三人はその惨状に目を瞠った。
他とは比べ物にならない程の死体の山。
むせ返るような血の匂い。
そしてその中心に立つーーー。
「銀時!!」
桂達は慌てて銀時の元に駆け寄る。
「いやァ無事でよかった!!全く姿が見えんから心配しちょった!!」
坂本はあっはっはと大仰に笑いながら、銀時の背中をバンバンと叩き、やがて肩に手を置いた。
「……で、何があった」
銀時は返事をしない。
高杉はその様子を一瞥してから、そっと辺りを見回した。
「………Aは?」
その名前を口にすると同時に、ふと崖近くに突き立った刀が目に入った。
見間違えるはずもない、Aの愛刀・朝霧。
高杉はただ、地に膝をつくことしか出来なかった。
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時