四十三話 ページ45
雲一つない晴天に太陽が煌々と輝いている。
鳥も活発になるのか、屯所の一角に巣を作り始めていた。
最初こそ隊士が見つけて取ろうとしたが、近藤が止めてそのままになっているという。
Aは中にこもる熱を逃がすように、髪を手で梳いた。
最近では一番の高気温で、何もせずとも汗が滲む。
しかしその分、開け放たれた部屋を吹き抜ける、撫でるほどの風が心地よかった。
目の前では、沖田が机を挟んだ先で一枚の紙と気だるげに格闘している。
「次はそこでバズーカを放った理由を」
「“撃ちたい気分だったから撃ったんだよ。文句あるか”」
「開き直らないでくれます?」
その紙とはもちろん始末書だ。
先日代筆した始末書については、土方から礼の言葉を賜った。
相変わらず素っ気なく無愛想だったが、睨むような目つきが無くなったあたり、以前から進捗がないという訳でもないらしい。
しかし、代筆がバレないとは思っていなかったが、全てそうだとまでバレたのは痛手だった。
沖田にも少しは書かせるよう、何故かAが土方に怒られ、今こうして再び彼に付き合っている。
沖田は最初こそ逃げ回っていたが、結局Aが大幅に譲歩し、一枚自分で書けば、その他の全てをAが仕上げるという条件で席につかせることに成功した。
だが、その一枚でさえ素直に終わらせてくれないのだから、Aの苦労は疑うべくもなかった。
「“攘夷浪士が民間人に危害を加えると判断したため”」
「え〜、俺に嘘吐かせる気かィ」
「嘘も方便……っていうか、どの口が」
「んだって?」
「いーえ」
この場の主役は紙と筆だというのに、手より口の方がよっぽど働いている。
Aが沖田の一言一言に反応してしまうのも原因の一つだ。
そのせいか、沖田は状況の割には退屈していないようだったが、結局筆が進んでいないのだから本末転倒である。
「……つーか、アンタ。最近なんか雰囲気変わった」
沖田は筆を置いて頬杖をつくと、Aの顔をまじまじと眺めた。
「どう変わって見えます?」
筆を沖田の手に収めながら問うと、沖田は「否定しないのかィ」とつまらなさそうにぼやく。
「生意気になった」
彼は絶対に褒めないに違いない。
予想が当たったとばかりにAは口元を綻ばせた。
「ほらその顔」
「ちょっと、筆をこっちに向けないでください」
顔に落書きでもするのかと思うくらい近くに迫った筆を、Aは慌てて手で押しのけた。
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時