【銀魂】光翼鳥の剣：re1 (ページ44)

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四十二話ページ44

土方の言葉はなおも続いた。

「屯所に留まるも出て行くも自由にしろ。留まるにしても、お前の行動や交友関係に口は出さねェし、役に立たねェ山崎の監視も取っ払ってやる」

「…………随分と、大きな借りですね」

僅かに動揺したAに、土方は「そうでもねェよ」と口の端を歪める。

「その代わり、お前に会いに来た友人とやらを含む攘夷浪士がしょっ引かれても文句は言わせねェ。当然、テロに加担するようなら、お前も同罪だ」

それを聞いて、Aは納得した。

要は餌だ。

Aを泳がせて、それに寄って来た攘夷浪士を一網打尽にしようという算段なのだろう。

食えない人だ、とAは思った。

だが不思議と悪い気はしない。

彼という人間に、Aは興味を持ち始めていた。

「……では、もう少しだけお世話になります」

「肝が据わってんな」

土方が鼻で笑う。

しかし、そこに馬鹿にしたような様子は見えなかった。

Aは小さく首を縦に振る。

互いの立場を利用する、奇妙な関係が生まれようとしていた。

「もちろんいずれは出て行って、自分の居場所を探すつもりです。――――さっきまでは、すぐにそうするつもりでした。けれど今は、この国や真選組のことを、もっと知りたいと思っています」

それが、真選組に居ればできる。

Aはそう信じて疑わなかった。

この選択が、彼女を再び歴史の表舞台に駆り立てるとは知らずに。

「だからそれまでは、あの夜の恩返しをさせて下さい」

「……律儀だな。近藤さんはンなこと気にしねェってのに」

「ええ。近藤さんと―――」

Aは土方に歩み寄ると、ポケットに突っ込まれた左手を恭しく取った。

「貴方に」

「――――………」

これについては、さすがの土方も完全に想定外だったようだ。

取られた右手を払うことも出来ずに固まる土方に、Aは柔らかく微笑む。

「遅くなりましたが、あの時はありがとうございました」

「…………チッ」

どうやら我に返ってしまったらしい。

土方は身を引くと、隠すように手をポケットに戻してしまった。

話は終わったとばかりに踵を返す。

(……友達どころか知り合いレベルさえ難しそうかな)

馴れ合うつもりは無いが何となく物寂しい気分でいると、門の中に消える直前、土方が小さく呟いた。

「……どーいたしまして」

「！」

愛想などあったものではなかった。

しかし、Aはふっと息を吐くように笑うと、門が閉じられる前にと小走りで駆けだした。