三十五話 ページ37
「行っていいよ」と山崎から背中を押され。
Aは声の聞こえた門の方へと小走りで向かった。
しかし到着してみれば、そこにいたのは沖田だけだった。
「あ、来た」
短くそう言った沖田に、Aは先程の少女の声について尋ねる。
「沖田さん、神楽ちゃんは?」
「追い返したに決まってんだろィ」
「え!?何で!?」
唖然とするAに、沖田はさも当然のことのように答えた。
「そりゃ目障りだからに………って、どうしてアンタがアイツらのこと知ってんでェ」
「今日買い出しに行った時に知り合って………」
「あァ、土方のパシリか。かわいそーに」
つい先程までは貴方のパシリだったのですが。
Aはつい口に出そうになった言葉を飲み込むと、門の外に走り出た。
「私、ちょっと行ってきます」
「はあ?何で?」
「急用かもしれませんから!」
こんな時間にやって来るということは、何かあったに違いない。
街灯に照らされた夜道を駆けるAの頭の中には、昼間の新八の言葉が甦っていた。
こうして飛び出したのも、きっとそれが引っ掛かっていたことが一因に違いなかった。
***
「副長、失礼します」
障子を足で開き、山崎は執務室に足を踏み入れる。
まさか本当に戻って来るとは思っていなかったのか、土方は筆を持った姿勢のまま、見開かれた目で山崎を見上げた。
「どういうことだ。天変地異でも起こるのか?」
「Aさんが“手伝った”らしいです」
全部やったと言ったら突き返される可能性を見越して、軽く虚偽の報告をしながら書類を置く。
「では失礼します」
用を済ませてさっさと出ていく山崎を黙って見送り、土方は書類の山を手に取った。
上から順番に確認してみれば、一纏めの書類はホッチキスで丁寧に留められ、さらに日付順に並んでいる。
書類の字は沖田の汚い字によく似ていた。
しかし、所々の止めや払いに本人の几帳面さが滲み出ており、沖田が使わないような漢字も多く混ざっている。
そもそも、沖田がこんな風に書類を皺も染みも無しに仕上げられるはずがない。
「………………」
間者だった以前の女も、こうして書類仕事を手伝っていたことがある。
最初は気前よく手伝っていた女だったが、沖田の元にある書類が全て始末書であることを知ると、三分の一にも満たない内に投げ出したと聞く。
土方は手に取った書類を元に戻すと、憂鬱そうに立ち上がった。
***
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時