三十二話 ページ34
散らかった部屋の中心に座して、三人で向き合う。
その中心には、先程の刀がぽつんと置かれていた。
布はすべて取り払われ、その全体が露わになっている。
美しい刀ではあったが、改めて見ると鞘には傷が多く、鍔も欠けている所があった。
柄には血の染みが滲んでいる。
新八は、銀時の口から出た第一声に頭の中が重くなるのを感じた。
「亡く、なった……?」
反芻するように言うと、銀時は小さく頷く。
「攘夷戦争の真っ只中で崖から落ちた。……俺を庇ってな」
「そ、そんな……」
新八は視線を落とし、傷だらけの刀を見つめた。
かける言葉さえ見つけることが出来ない。
いや、そもそも銀時だってそんなものは求めていないだろう。
黙りこくる新八の視線を追って、銀時は「それは」と口を開いた。
「あいつの…………Aの、愛刀だ。朝霧っつって、家宝みてーなもんだったらしいが」
彼女の名前を口にする時、彼の言葉は少し詰まった。
新八はやり切れない気持ちになって、唇を引き結ぶ。
攘夷戦争など、もう何年も前の話だ。
その時代に崖から落ちて行方不明になった人間が、今更姿を現すことなどあるだろうか。
上条A。
その名前の人間が現れたのは本当にただの偶然で、紛れもない別人なのだろうか。
自分たちは、彼の古傷を抉ろうとしただけなのだろうか。
「………………」
俯いて顔に影を落とす新八から目を外し、銀時は大仰に頭を掻きながら、わざとらしく溜息をついた。
「なーに辛気臭い顔してんだよ、ぱっつぁん。気にすんなって。初恋を拗らせるガキじゃあるめーし、俺だってその辺の整理は出来て……」
「分かりやすい嘘ついてんじゃねーよ、この腐れ天パ」
「おーい、神楽ちゃん?汚い言葉使うんじゃありません」
何でもないことかのように紡がれた銀時の言葉に、今迄黙っていた神楽が口を開いた。
おどけたように口先で喋る銀時を、神楽はキッと睨みつける。
「初恋拗らせたクソガキが偉そうなこと言ってんじゃ無いアル!!まだ本当にAが死んだと決まったわけじゃないヨ!!」
「―――あいつがいなくなったのは、お前がまだウンコ漏らしてた頃だぞ」
「そんな時代ないネ!!……何で確かめもせずに決めつけるアルか!?私、ネガティブな銀ちゃん嫌いヨ!!違ったら違った時に凹めばいいだけアル!!」
その言葉に、銀時だけでなく、新八も顔を上げた。
道が開けた気がした。
ああ、そうだ。
落ち込むのは、きっとまだ早い。
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時