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三十一話 ページ33

銀時の部屋から出てきた、一振りの美しい刀。

万事屋にあるには似つかわしくないそれから、新八は目が離せなかった。

一体、どんな立派な刀匠の作品だろう。

魅せられたように手を伸ばしかけた、その時だった。

「そいつに触んな!!!」

「!!」

背後から放たれた怒声に、新八の手は反射的に引っ込んだ。

硬直した身体で唯一自由な目を動かすと、神楽の表情が強張っているのが分かる。

「ぎ……銀ちゃん……」

そう言った神楽の声は震えていた。

わずかに聞こえる銀時の息遣いもまた、震えている。

一体、今の彼はどんな顔をしているのだろう。

振り返ってそれを確かめる勇気は無かった。

「それは、あいつの……」

「―――――……」

その言葉で、二人の空気が変わったことに気が付いたのだろうか。

銀時は言いかけた言葉を、急に我に返ったように飲み込んだ。

そして、ばつが悪そうに視線を逸らす。

「……まあ、アレだ。特別に許してやるから、さっさと外に出ろ」

「嫌アル」

間髪入れずに放たれる神楽の拒絶。

その手には、今も刀が強く握られている。

神楽の頑なな様子に、銀時の顔には僅かな戸惑いが浮かんだ。

新八は呼吸を整えると、ようやく銀時を振り返る。

「……銀さん。僕達に隠し事するの、もうやめて下さい」

「……何言ってんだよ、新八。男って奴ァ、隠し事の一つや二つや三つあるもんだろ?」

しかし、銀時の方も調子を整えてしまったらしく、先程の戸惑った表情はどこへやら。

いつも通りの気だるげな目が、新八を見つめていた。

どうして、この人はこんなにも誤魔化すのが上手いのだろう。

いつもと変わらない銀時の雰囲気に流されそうになるが、拳をぐっと握って押し留まる。

新八はもう一度深呼吸をした。

正座し、姿勢を整え、真っ直ぐに銀時を見据える。

「……上条Aさんをご存知ですか?」

「!?」

かまをかけるつもりだったが、どうやらその必要もないらしい。

銀時の顔にありありと浮かんだ動揺を、新八は見逃さなかった。

「ご存じなんですね?」

「お前!!どこでそれを!!!」

銀時は新八の両肩に掴みかかる。

新しい情報なんて、そんなのただの名字だけ。

たったそれだけのことが、こんなにも彼の心を乱してしまう。

肩にかかる痛みは、きっと彼の想いの強さなのだろう。

それを思うと、新八は何だか喉の奥が締まるように痛むのを感じた。

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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時

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