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二十五話 ページ27

山崎退はAを見つめていた。

ただひたすら見つめていた。

山から下りてきたというAのはじめてのおつかい。

迷子にならないか。

ちゃんと会計できるか。

知らない人について行かないか。

小さな子を持つ親の気持ちを、彼女さえいない山崎はひしひしと感じていた。

が、それは杞憂だった。

山崎の視線の先のAは、大量のマヨネーズを袋一杯に詰め、既に店を出ようとしている。

土方の指示で尾行してきた山崎は、出番が無かったことに、ほっとしとような、少し残念なような気分になった。

(やっぱり、普通の人だよなぁ………)

山崎は心の中で一人ぼやく。

昨日の今日でAを一人で外出させると土方から聞いた時は、山崎も耳を疑った。

しかしどうやら、土方にはとりあえず彼女を泳がせて尻尾を掴もうという意図があるらしかった。

(監視、とっくにバレてるんだけど………)

それどころか彼女とは握手を交わした仲だ。

土方に知られたらと思うと恐ろしいが、山崎はそれよりも得たものがあると思っていた。

それは彼女という一人の友人と、そんな彼女が悪い人間ではないという確信。

監察としての勘がそう言っていた。

もちろん、その勘で土方を説得出来たら苦労しないのだが。

(………屯所の近くまでなら、一緒に帰ってもいいかな)

袋を両手にふらふらと歩くAを見ながら、山崎は「だって大変そうだし」と心の中で誰にともなく言い訳した。

彼女の気分転換にもなるだろう。

ずっと隠れていた柱から出て、Aに駆け寄ろうとしたところで、不意に後ろから肩を叩かれる。

「?」

疑問に思いながら振り返ると、怪しむような目つきをした中年の女が自分を睨みつけていた。

「アンタ、さっきからあの子の後をつけて、何してんだい」

「えぇっ!?」

驚いて思わず声をあげたが、女が自分をストーカーか何かと勘違いしていることは明白だった。

「お、俺は怪しい者じゃありません!れっきとした真選組の隊士で………」

「嘘おっしゃい!真選組がこんな真っ昼間に一人で何してるってんだ!」

「そ、それは………」

悪目立ちしないようにと、私服に着替えてきたのが失敗だった。

尾行中と言うにも、Aの名誉を傷つけるようで気が引ける。

「そ、そうだ!警護です!彼女の命がかかっているので、これで!」

「あ!ちょっと!!」

強引に女を振り切ってAの後を追う。

しかし、彼が角を曲がった時には、既にAの姿は見えなくなっていた。

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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時

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