二十四話 ページ26
Aの努力が功を奏してか。
Aは巡回を渋る沖田を何とか部下に引き渡すことに成功した。
彼の部下からの謝辞の嵐に、普段の彼の素行の悪さを垣間見た気がした。
「ふぅ………」
たったこれだけのことで、一仕事終えた気分になる。
廊下の掃除に戻ろうと踵を返したところで、ふと鋭い眼光と目が合った。
「ひ、土方さん」
煙草を咥えてこちらを睨みつける彼は、とても機嫌が悪そうだ。
その表情にぴったりと合った不機嫌な声で、土方はAに短く問うた。
「サボりか」
「違いますよ。沖田さんが」
「あー………」
それだけで納得した、というように土方は視線をそらす。
その動きにつられて動く煙を眺めながら、Aは彼の肺が少し心配になった。
彼は常に煙草を吸っている気がするが、やはり立場上ストレスが溜まるのだろうか。
その原因のほとんどを、沖田と自分が占めていそうなのが複雑だった。
(……沖田さんはどうしてあんなに土方さんに嫌がらせするんだろう)
ここに来てたった二日の間にも、沖田は土方に対して幾度となく嫌がらせをしていた。
背中に張り紙をしたり、落とし穴にはめたり、好物のマヨネーズに細工をしたり。
バズーカまで打ち込むとはさすがに思わなかった。
反応が楽しいというのもあるだろうが(サディストだし)、それにしても、土方に対してだけは他の比ではない。
(何かあったのかな)
そう考えていると、ふと土方の手に目が留まる。
無骨だが指は長く、爪も適度に整えられた綺麗な手だと思った。
その、手で。
(ダメダメ!考えるな!!)
油断すれば、すぐに例の着物の件が頭の中に甦ってくる。
考えないようにすればするほど逆効果にも感じる。
「おい」
「はいっ!?」
不意打ちを食らい、思わず声が裏返った。
土方の疑るような視線が突き刺さる。
「いつまで突っ立ってやがる。給料分は最低限働け」
「は、はい。ごめんなさい」
頭を下げ、慌てて戻ろうとすると、再び「おい」と声をかけられた。
「なんでしょう?」
「今やってることが終わったら。買い出しに行け」
「分かりました。何が要りますか?」
「マヨネーズ」
「…………………………それから?」
「以上だ」
それだけ言い捨てて、土方は背中を向けて去ってしまう。
(本当に好きなんだな)
しかし、まさか江戸に来て初めての買い物がマヨネーズとは。
今回は迷子の心配もなさそうだと、Aは恐らく尾行してくるだろう山崎のことを思った。
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時