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二十二話 ページ24

往復、往復、ひたすら往復。

Aは屯所の長い廊下をひたすら雑巾がけしていた。

ゴミや埃で汚れていた場所が、みるみるうちに綺麗になるのは気持ちがよかった。

何より、余計なことを考えずに済む。

初対面の男に、寝ている間に着替えさせられたかもしれないこととか。

まさか汗も拭いてくれた?とか。

拭いたなら…………どこまで?とか。

Aは首を横に振って雑念を追い払う。

そんな風に繰り返した何度目か分からない往復の途中で、ふと目の前の足が行く手を阻んだ。

「あ、ごめんなさ……」

雑巾がけの態勢のまま顔を上げると、そこにはあまり見たくない顔があった。

「へェ……いい光景だねェ」

ニヤリと口元に邪悪な笑みを浮かべて自分を見下ろしてくる沖田。

Aは自分の顔がみるみるうちに落ち込んでいくのを感じた。

「うぇ」

「そう喜ぶなよ」

「喜んでません」

これ以上からかわれる前にと、Aはさっさと立ち上がった。

道を開け、手振りでどうぞと先を指し示す。

「アンタ、ノリ悪ィな」

「仕事中なので。沖田さんもでしょう?」

Aは生憎、見下ろされて喜ぶ人種では無かった。

不満げなAの肩に、沖田はまあまあ、と宥めるように手を置く。

「沖田さん、なんて堅苦しいじゃないですかィ。俺とアンタの仲でしょ」

「仲良くなった覚えもないんですけど……」

「俺のことは気軽に“御主人様”とでも呼びなせェ」

「嫌ですよ!まだ続けますか、それ!?」

Aは思わず沖田の手を振り払った。

彼が御主人様なら、やはり自分は「メス豚」か。

沖田は払われた手をそのままに、Aの顔をまじまじと眺める。

その顔は真剣そのものだ。

「……アンタ……」

「な、なんですか」

射貫くような視線に挑むように、Aは軽く睨み返す。

しかし沖田は、その大きな瞳にAを捉えたまま、また笑みを浮かべた。

「その嫌がる顔、最高でさァ」

「………………はあ!?」

「人の嫌がる顔って、どうしてこんなにいいんですかねェ」

「な……な……」

心から愉快だというように笑う沖田。

この言葉で、Aは沖田総悟という人間をようやく少し理解した気がした。

(これが……本当のサディスト!!)

思えば土方もそんなようなことを言っていた気がする。

残念ながら、それが今こうして腑に落ちてしまった。

その心情を表すように顔を歪めるAに、沖田はやはり満足げに笑った。

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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時

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