十九話 ページ21
「笑った…………」
山崎は茫然としながらぽつりと呟く。
その言葉を聞き逃さなかったAは、訝しげに首を傾げた。
「笑ったっていいじゃないですか、にんげんだもの」
「みつをみたいに言わないで下さい」
いつもの癖で思わずツッコミを入れた山崎に、Aがまた笑顔を浮かべる。
その様子に、山崎は安堵に似たものを感じた。
「…………良かった」
「え?」
「ここに来てから、緊張したり、驚いたり…………笑っても困ってるみたいだったので」
そう言われて、Aは初めて山崎と目があった時のことを思い出した。
土方達の口論に困り果て、苦笑いしたあの時。
思えば、誰かの前でちゃんと笑ったのは、せいぜいあの時くらいだったように思う。
「………山崎さんは不思議ですね」
「え?」
今度は山崎が聞き返す番だった。
「安心します。山崎さんがいると」
「……………………」
Aの視線に真っ直ぐ射抜かれ、山崎は硬直する。
しかしすぐにハッと我に返ると、頭をかいて情けなく笑った。
「いやあ……ははは………土方さん達は濃いですからね!俺の地味っぷりが役に立ったのならなによりです」
何でもないことのように言えればいいのに、無意識のうちに口角は上がってしまう。
上司達に比べて凡庸な自分が、突如としてこの男所帯に放り込まれた彼女の助けになれたようで嬉しかった。
「困ったことがあったら何でも言ってください。基本天井にいるので」
「ありがとうございます。…………あ、着替え中は勘弁してくださいね」
「ぶはっ…………!?あ、当たり前です!」
思わず顔を赤くする山崎に、Aはまたくすくすと笑う。
そんな彼女をもっと笑わせたくなって、山崎はぐっと手を差し出した。
「山崎さん?」
「改めて……なんですけど、ううん、なんだけど。俺、山崎退」
「…………!」
山崎の言葉に、Aの表情がぱっと華やぐ。
山崎はまた口角が上がりそうになるのと、手が震えそうになるのを必死に耐えた。
「私は上条Aです!」
「じゃあ……Aさん。俺と、ここで最初の友達になってください」
「はい!………ありがとう、退!」
Aの手が山崎の手を握り返す。
妙に気恥ずかしくて、嬉しくて、二人は顔を見合わせて笑った。
「私達、何だか子どもみたいだね」
「今時子供でもしないよ」
「そうかも」
土方にバレたらきっとただでは済まない。
しかし山崎には、やはり彼女の笑顔が偽りだとは思えなかった。
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時