一話 ページ3
雲一つない晴天に、白んだ月が浮かんでいる。
昼中にも月が見えるのは何故だったか。
以前結野アナが何か言っていたが、それもすっかり忘れてしまった。
「万事屋銀ちゃん」の看板が掲げられた古い家の中から、坂田銀時はぼんやりそれを眺める。
カチコチと均等に時を刻む時計の三本の針が、同時に「12」を指したその時だった。
「たっだいまァァァァァァアルゥゥゥゥゥゥ!!!」
「うっっっっさ!!!!うっさいよ、神楽ちゃん!!」
玄関口が大きな悲鳴を上げたと思えば、元気な声と共にドタドタとした音が近づいてくる。
二人分の足音は、やがて銀時のいる部屋で止まった。
この万事屋の社員である志村新八と神楽は、銀時に見せるように手に持ったビニール袋を掲げた。
ちなみに最後に給料をもらったのは三か月前である(これでもマシな方だ)。
「銀さーん、頼まれてたジャンプ…だけは買ってこれました」
「いちご牛乳は気づいたら全部酢昆布になってたけど、気にすんなヨ!」
「気にするわァァァ!!!たまたま事故でなっちゃったみたいな言い方しないでくれる!?」
「うるさい、メガネ」
「突然辛辣!?」
新八と目を合わせることなく、神楽はソファにどかりと座り込んだ。
すると、部屋の隅で丸まっていた定春が、「くぅん」と鳴きながら神楽の足元にすり寄る。
足元と言っても、定春の大きな図体では、神楽の小さな体の半分を隠してしまっていた。
「よーし、よし」
定春と戯れながら酢昆布をむさぼる神楽に、新八はため息をつきながら銀時に視線を戻す。
「……いやなんかホントすみません。でも、これを機に銀さんも糖分を控えて……銀さん?」
「………………」
いちご牛乳が酢昆布に変わったにも関わらず、何の反応も見せない銀時に、新八は首を傾げた。
しかしすぐに、「ああ、いつものか」と首肯する。
神楽も察したらしく、可愛らしい顔をわずかに曇らせた。
銀時は空に浮かぶ月を眺めたまま、誰にともなく呟く。
「A………」
「…………誰ヨ、Aって」
神楽の問いに、答えが返ってきたことは一度も無い。
神楽は諦めたように、定春を連れて再び外に出て行った。
新八も静かに部屋を出る。
一人残された銀時は、彼女ーーー上条Aが消えた日に想いを馳せた。
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時