十六話 ページ18
土方は、もう近藤を追うことはしなかった。
その場で立ち止まり、近藤の姿が見えなくなったところで、唇から煙草を離し、煙を吐き出す。
「……山崎」
「ハイッ!!!」
「ハァ〜イ」
「いや、お前は呼んでない」
山崎の返事と共に聞こえた(出来れば聞きたくなかった)声に、土方は思わず振り返る。
視界に入るのは、駆け寄ってくる山崎と、あくびをしながら気だるげに歩く沖田。
そもそも、Aがこうして屯所に留まることになったのも、沖田が煽ったところが大きい。
以前の女の時もそうだったように思う。
近藤が無事だったから良かったものの、この男には反省というものがないのか。
怒るのも追っ払うのも面倒で、土方は山崎に視線を移した。
「………山崎。お前、暫くあの女を見張ってろ」
「ええっ!?」
「文句でもあんのか」
「いえ、無いですけど………」
山崎は肩を丸めておずおずと土方を見上げる。
「けど」の後に「そこまでします?」と声が聞こえてくるような気がした。
「あの女を拾った場所だが………」
土方は薄い唇をゆっくりと開いた。
「ここ最近、あの周辺では違法ドラッグ・転生郷の被害が相次いで発生している」
「!」
「被害者なのか、加害者なのか、そもそも関係があるのかさえまだ分かっちゃいないが、あの女が俺達に何かを隠しているのは確かだ」
「隠してるって………どうしてそう思うんですか?」
「あの女の言動や視線の動きを見ていれば分かる」
「え〜〜そんなに見てたんですか〜〜副長ってば変態〜〜」
「てめェ、バカにしてんのかァァァァァァ!!??」
「わあああああ!?俺じゃないですって!!!!」
激高した土方が山崎の胸倉をつかむ。
その脇で楽しげに笑う戦犯が視界に移り、山崎は少し涙目になった。
「とにかく!」
土方は山崎の隊服を乱暴に放すと、目をわずかに細める。
「用心するに越したことはねェ。不審な行動をとるようならすぐ報告しろ」
「は、はい」
山崎は襟首を整えながら返事をすると、そのままAの部屋に足を向けた。
これからのことを考えて憂鬱になりながら、土方は大きな溜息をつく。
「あ、幸せ逃げた」
「……お前、俺への嫌がらせも大概にしろよ」
「いやァ、何のことだか」
沖田は白々しく返事をすると、更に続けた。
「むしろプラスに考えましょう。本当に間者ならむしろ近くに置いた方がいい」
不本意ながらそれなりに最もな発言に、土方は何度目かも分からない溜息をついた。
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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時