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十二話 ページ14

「いやァ、元気そうで良かった!良かった!!」

土方に連れてこられた一室。

そこはAの寝ていた部屋はもちろん、他の部屋に比べても、少し広いようだった。

Aの顔を見て、腕を組んで大らかに笑うのは、この真選組の局長だという近藤勲。

その笑顔に、Aは言いようもない安心感を感じる。

『君、大丈夫か?………って、すごい汗じゃないか!?』

昨夜、Aを気遣ったあの人の好さそうな声の主が彼であることは想像に難くなかった。

今この部屋にいるのは、近藤とAの他に、土方、沖田、そして山崎と名乗る男。

土方は近藤の隣に腰を下ろすと、Aと改めて向かい合った。

「単刀直入に聞く。昨夜、何があった」

「!」

その問いに、Aは居住まいを正す。

あの時、Aはよりにもよって真選組の人間に縋りついて助けを求めてしまった。

事件にでも巻き込まれたのではないかと、彼らが気にするのも無理はないだろう。

しかし困ったことに、Aは暗闇に怯えただけで、本当に何か助けを求めていたわけではない。

とは言え、今更何かそれらしい言い訳を考える時間もない。

仕方なく、Aはありのままに答えることにした。

「……えっと、私は田舎から初めて江戸に来たのですが、道が分からなくて迷子になってしまって…………。そしたら何だか怖くなってしまったので、ああして助けを求めたんです」

「………それだけか?」

「はい。暗所恐怖症なんです、私」

「………………」

(あ、これ絶対信じてない)

無言で押し黙った土方に、Aはその心情を察した。

当然だ。明らかに怪しすぎる。

しかしこれが本当に全てなのだから、Aにはこれ以上説明することが出来なかった。

「君はどうして江戸に?」

能天気に重々しい沈黙を破ったのは近藤。

Aは近藤に視線を向けると、実は、と口火を切った。

「一緒に山奥で暮らしていた祖母が先日亡くなって独りになってしまったので、こうして山を降りてきたんです」

所々誤魔化しつつそう言えば、近藤は同情したように眉を下がらせた。

「そうか……それは大変だったな。ということは、江戸に知り合いもいないんだろう?」

「……そう、ですね」

Aは胸がちくりと痛むのを感じた。

一つは目の前の優しい人に嘘をついたという罪悪感。

もう一つは、生死も分からない大切な人達を思って。

思わず視線を下げたAの横顔を、土方が静かに見つめていた。

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作者名:Lea | 作成日時:2020年5月21日 17時

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