【沖田総悟】拝啓お母さん、貴方の娘は猫になりました。【銀魂】

猫17匹 ページ17

総悟Side



ハル。


そう決めた名前に理由なんてものは存在しない。



単純に俺の頭に浮かんだ言葉をつけただけだ。


(春だな。)


外を見回りで歩けば、毎年毎年同じように巡る季節。穏やかな気候は雪を溶かしていき、置かれた蕾はゆっくりと咲いていく。



サラサラと流れる優しい暖かい風もそれを後押しして、春というのは本当に美しい季節だ。



咲くというのは、本来笑うという意味だったらしい。


よく見れば『咲』には口へんがついていて、『笑』には竹冠があるだろう。


どこでどう間違えたのかはわからないけど、昔から『笑』を『破顔すること』の同義として覚えてしまったからには『笑』は人間の顔が笑っているようにしか見えない。


というように、俺の目の前でゴロゴロと喉を鳴らすこの猫も俺にしたら飼い猫には見えないのだ。一度野良だと信じてしまえば疑うことなんて馬鹿げている。


窓をあけて風を呼び起こすと、桜の欠片が迷い込んできた。それがハルの鼻先に乗っかった。



(…写真写真…)



そうだ、これを姉上に…




ああ、いないんだった。




この季節があと少し時を刻むと、俺の肉親だった姉上の命日が近づく。




どれだけ時間が経っても、どれほど記憶が遠くなっても、姉上は必ず生きているものであるという昔からの安心感は簡単にぬぐい去ることは出来ない。



春というのは穏やかで、誰にでも優しい季節だと人は言うがそうは思わない。



俺にとって春は、別れを連想してしまうからだ。



そしてこの俺が名付けたハルもいつか時が経つといなくなってしまうのだろう。



それまでは、大切にしていこう。



全く進んでいない書類の上で頬杖をつきながらふと物思いに耽っていた。

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