『しのぶれど』 ページ40
「…はあ、」
「なんだい銀時、最近随分とため息が多いねえ。」
「るせえ、ほっとけ。」
その夜。あの日藤沢Aと出会った路地を出歩くという健気というか気色悪い行動をしでかした俺。
無論泥酔していたわけだが、脳みそはちょうど機嫌がよかったらしくその記憶を無理やり消去することをしなかった。
消して欲しくない記憶はご丁寧に丸ごと消すくせに、消してしまいたい記憶は厄介にも残してくれてるバカ頭。
いや、俺の頭だから貶すのはよくないな。とはいえまた会おうという気を起こして会いに行こうと行動を起こした俺の早々の末期症状を誰かにひっぱたいてほしい。
正直こんなことしてるのをバレでもしたらもうあの人に見せる顔もなくなる。
だがAさんともう一度顔を突き合わせたいというのに手がかりが少しもないと参ってしまう。
「あんたねえ、色恋もいいけど家賃今月払ってないさね。さっさと」
「いいいいい色恋じゃねええええ！！！」
「なんだいさっきからぶつくさ言ってると思えば…。あの女の子かい、酔ったあんたを介抱してくれた…」
「ち、ちげえよ！」
「ま、私も別にいい女だとは思うよ、あの子は。面倒見もいいみたいだし、酔って取り返しのつかなかったあんたを自分の車で送り届けるなんて行動力中々ないからね。」
「だから…！」
「バレバレだよ。あんたの挙動見てると、一端の男ぶってはいるけどまだまだガキだね。
あの子はいい女だし、年上だからガキっぽいあんたにはもってこいじゃないかい。」
「………恋人いるんだとよ。」
「…恋人ねえ。まあおかしい話でもないさね。あたしゃとやかくいうつもりはないけど、そこで諦めるんだったらあんたはそこまでのタマってことじゃないか。」
「………。」
「わびぬれば今はたおなじ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ…
あんたにぴったりな歌だと思わんかい？」
「知らね。俺ァ難しいことは嫌いだ。」
そっぽを向く俺の鼻には、ババアと吸うタバコの煙の匂い。いつもなら平気なそれが、なんだか今回に限っては嫌に煙たくて涙が出る。
「あら、あんたそんな泣き虫なのか。」
「てめえのタバコだよ。」
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作者名：hikari | 作成日時：2017年12月22日 23時
