【坂田銀時】いざよいの華【銀魂】 (ページ39)

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『めぐり逢いて』ページ39

俺は俺の羞恥心がもどかしい。

そう感じるようになったのは、名前を聞いたあの時にあんな野暮ったい言葉しかかけられない己の性によるものだ。

『変な人』

呆れるような、それでいて面白そうな笑いを含めたAさんの声は立ち尽くす俺の頭でこだまし続けた。

別に戦争が始まってから伝説としてあの界隈に君臨する間女っ気がなかったわけではないのに、どうしてかまるで初恋のような気持ちが俺の中に芽生えていた。

間違いなく出会ったことなどないのに、俺よりも年も心も重ねたあの人に胸を高鳴らせる俺がいた。

『変な人ってなんだよ。』

少なくとも、あの人にとって俺は普通の奴ではないのだ。つまりは特別。

変な話だがそれが嬉しくてたまらなかった。

振り返ればまだいるんじゃないか。そんな願望でまた後ろを見ると、繁華街の通りにはそれらしき女はもう歩いていなかった。

きらびやかな着物ではないが、朱色の花が縫ってある着物は目立つし、それでなくても出会ったばかりの俺だがAさんのことをすぐに探し出せる自信があった。

(いねえのか。)

別に足が速い訳では無いのだろうが、いないのならば仕方ない。

(別にいいさ。)

吐き出したため息は少し白く残ってゆっくりと消えていった。

やけに寒い。もうじきに雪が降るってババアも言っていたっけなァ。

かじかんできた手を揉みながら着物の中に手を突っ込むと、Aさんが歩いていった方向とは逆の道を何を考えるまでもなく足をかけた。